白球つれづれ2023・第44回
今年もドラフト会議で数々のドラマが生まれた。
事前の予想では「東都七人衆」と呼ばれた大学生の即戦力投手に人気が集まり、1位指名では西武が武内夏暉(国学院大)、広島が常廣羽也斗(青学大)を抽選の末に引き当てるなど、終わってみれば12球団中10球団が投手を獲得した。
一方で野手の1位指名を狙いDeNA、中日とロッテの3球団が重複したのが度会隆輝選手(わたらい・りゅうき、社会人・ENEOS)。抽選の結果はDeNA・三浦大輔監督が引き当てた。
度会と言えば父の博文氏が元ヤクルト選手という“父子鷹”の話題性に加え、横浜高時代にはプロ志望ながら、指名されずにENEOS入り。屈辱をバネに大きく成長してドラフト1位を勝ち取った。高校、社会人共に横浜は地元、ベイスターズにとっても待望のスター候補生の誕生だ。
ドラフトはチームの近未来を見据えた重要な補強の場である。
DeNAが、外野手の度会をトップで指名した背景には、「マシンガン打線」再構築の狙いがある。
今季もチーム打率.247は阪神と並びリーグ2位タイと決して悪くはない。しかし、同総得点(520)は4位、盗塁(33)は最下位とバランスに欠けることが3位に終わる要因となっている。首位打者の宮﨑敏郎、最多安打の牧秀悟両選手は文句なしだがその前後を固める選手が欲しい。
3割の常連・佐野恵太選手が故障もあって打率を大きく落とし、長打力を誇ってきたネフタリ・ソト、タイラー・オースティンの両外国人選手にも衰えが目立ちだして来た。そんな穴を埋めるには、走攻守三拍子揃った度会の獲得は狙い通りと言えるだろう。
今オフのベイスターズが抱える大きな問題
だが、このオフのベイスターズには大きな問題がまだ積み残されている。超大物助っ人、トレバー・バウアーと今永昇太のWエースの去就である。
現役バリバリのサイヤング賞右腕・バウアーは今春入団すると、8月末時点で10勝4敗、防御率2.76の好成績を残している。その後、右脇腹を痛めて戦列を離れるが、シーズンをフルに投げていたら投手タイトルにも手の届く位置にいたはずだ。
バウアーはドジャース時代の21年に、知人女性に対するDV禁止規定違反が発覚。MLBから2シーズン分に相当する324試合の出場停止処分(その後194試合に軽減)を受けている。今年1月にはド軍から契約を解除されたが、今季の年俸2250万ドル(約33億7500万円)が支払われるため、DeNAとは破格の4億円プラス出来高(推定)で契約を結んでいる。この契約が今オフで切れるため、新たな対応に迫られることになった。
バウアー自身は横浜の街が気に入り、チームへの愛もあると言うが今年とは違った巨額契約となれば話は別。現在は代理人を通じて米球界復帰やチーム残留の他に、日本の他球団へ移籍の可能性も探っていると言う。一部ではソフトバンクが獲得の調査に乗り出したと言う情報まで飛び交っている。
さらにもう一人の大黒柱である今永にもポスティングによるメジャー挑戦が取り沙汰されている。
すでに、昨年オフには球団側と移籍について話したと見られ、大手代理人事務所とも契約をするなど準備は着々と進んでいる。今永の登板日にはメジャーの複数球団が視察に訪れ、メジャーの公式サイトでは夏過ぎから移籍先としてヤンキース、ドジャース、カージナルスなどを挙げている。制球力があり、奪三振率の高い左腕だけに、ポスティングが容認されれば争奪戦も確実だ。
もし、仮にバウアーも今永も退団となれば、投手陣は崩壊的な危機を迎える。度会獲得が朗報でも、悲報が相次げば来季のV獲りもおぼつかない。
こうした大揺れのチームにあって、現在取り沙汰されているのがオリックス・山﨑福也、日本ハム・加藤貴之投手らの獲得である。いずれにせよ、今オフのDeNAの動きから目が離せない。
波高い来季に向けてフロントと、番長・三浦監督のかじ取りが問われる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)