11月連載:59年ぶりの関西シリーズを読み解く
関西が熱い! 今年のプロ野球日本シリーズは、阪神vsオリックスが59年ぶりとなる“関西ダービー”で盛り上がっている。2年後には大阪・関西万博も開催予定だ。首都・東京への一極集中が話題となる中で、関西をアピールするこれ以上の場もない。
米国のワールドシリーズもアリーグのレンジャーズとナリーグのダイヤモンドバックスの西地区対決。今季の野球界のトレンドは「西」なのか。古豪ながら久しく覇権から遠ざかっていた阪神と、リーグ3連覇を果たして常勝の波に乗るオリックスの戦いを振り返りながら、勝敗を分ける分岐点を検証していく。
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関西シリーズが決定した時から大きな注目ポイントがあった。阪神の本拠地である甲子園問題だ。厳密に言えば、熱狂的な虎党の存在と、浜風の吹く屋外球場での変化である。
第1、2戦の行われた京セラドームはオリックスの本拠地ながら、阪神ファンが5割以上を占めた。これが第3戦以降、甲子園に場所を移すと9割以上が虎党と言うありさま。予想されていたとは言え、外野の一角に閉じ込められた? オリ党の肩身は狭い。
選手もまた例外ではなかった。第3戦で右翼を守っていた森友哉選手は阪神ファンの声援を浴びて「背中が痛かった」と表現。三塁を守る宗佑磨選手も「ユニホームがブルブル震えていた」と語っている。百戦錬磨の選手でも甲子園の雰囲気は特別なものがあったようだ。
甲子園には魔物が棲む、とは昔から言われる。独特な空気が普段のプレーを許さない。そんな特徴が最も現れたのは第4戦、阪神のサヨナラ勝ちに見て取れる。
ゲームは終盤の7回から激しく動いた。
この回は阪神・佐藤輝明選手の三ゴロ失策からドラマが生まれる。敵のミスに乗じたオリックスは宗が同点タイムリーで試合を振り出しに戻す。
続く8回も阪神三番手の石井大智投手が捕まり、一死一・三塁のピンチ。流れは完全にオリックスに傾きかけた。ここから両軍監督の“死闘”が始まった。中嶋聡監督が一気呵成に代打でT・岡田選手を送ると、阪神・岡田彰布監督が左腕の島本浩也投手にスイッチ。するとオリックスは代打の代打として安達了一選手を起用したが三ゴロで三走は本塁憤死。なおもチャンスは続いたがここで岡田監督はシーズン序盤の守護神だった湯浅京己投手を送り出す。右脇腹の筋挫傷で戦列を離れていた湯浅は約4カ月半ぶりの一軍マウンドだったが、たった1球で中川圭太選手を二飛に仕留めた瞬間、甲子園の空気は明らかに変わった。大歓声が阪神を後押しして、サヨナラムードが出来上がっていく。
試合後、岡田監督は「湯浅が出てくると、ファンの声援でガラッとムードが変わると思った」と「湯浅の1球」を振り返ったが、これが甲子園の魔物第一章だ。
さらに9回裏のサヨナラ劇はオリックス側の独り相撲が生んだもの。一死から近本光司選手に四球を与えたジェイコブ・ワゲスパック投手の連続暴投で一死三塁のピンチを招くとオリックスベンチは二者連続申告敬遠で満塁策を選択する。1点もやれないこの場面で本塁封殺や併殺も狙える満塁策は決して悪手ではない。だが、ここでも甲子園の魔物は生きていた。大歓声に動揺したのかいきなり3ボールでは変化球も投げさせられない。直後に大山祐輔選手の一打が左前に弾んだ。この試合に敗れれば王手をかけられて敗色濃厚になる阪神は甲子園を味方につけて生き返った。
関西の民間シンクタンクである「アジア太平洋研究所」は、59年ぶりとなる今回の関西シリーズの経済効果を約1283億円と試算した。阪神の優勝効果は1011億円で、オリックスは272億円と言うから、虎の威光はやはり凄い。
見どころ満載の関西シリーズは、すでに第6戦以降の決着が決まっている。京セラドームに戻ったオリックスが山本由伸、宮城大弥両エースで連覇を決めるか? それとも虎党の京セラジャックでミラクル・タイガース再現成るか?
「アレ」の次はまだまだ予断を許さない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)