白球つれづれ2023・第47回
あっと驚く人事だった。
日本ハムは18日、稲葉篤紀GMが来季から二軍監督に就任すると発表した。
楽天の石井一久GMが一軍の監督を兼任したような例もあるが(その後、GM職を外れ、今季限りで監督も退任)、ファームへの転身は珍しい。
さらに、それに先立つ17日付の『スポーツニッポン紙』では侍ジャパンを世界一に導いた栗山英樹氏が来年1月1日人事で、球団の編成と運営の全権を担う最高責任者(名称は未定)に就くという特ダネを掲載している。同紙と栗山氏は古くからコラムを掲載するなど太いパイプがあるので、信憑性は高い。
かつて日本ハムの黄金期を築いた栗山、稲葉氏の人事は、チームをもう一度根底から作り直そうと言う球団の意思の表れと見て間違いない。
現在の日本ハムには2つの顔がある。
一つは昨年、新庄剛志監督を迎えて話題作りに成功。
今春に開場したエスコン・フィールドの新球場人気も手伝って観客動員は188万2573人を記録、前年比47.8%の伸び率は12球団トップの数字を叩き出している。
一方でチーム成績は2年連続最下位で、栗山前監督時代から5年連続のBクラス低迷が続いている。新球場による“ご祝儀景気”が覚めたら、お先真っ暗と言うわけにはいかない。
もう一度、球団の理念である「スカウティングと育成」の原点に立ち戻る必要に迫られているのだ。
「一人でも多く一軍で活躍する選手を育てたいと言うのが私の使命」
「2年間でボス(新庄監督)が、どういう野球をやりたいか、どういうことを望んでいるのか、わかっているつもり。そのためにしっかりと選手を準備させたい」。これが、稲葉二軍監督の決意である。
60勝82敗1分け。2年目を終えた新庄ハムの現在地だ。今季は6月末時点では4位まで順位を上げ、上位をうかがうところまでは来たが、夏場以降は失速して借金22。優勝したオリックスから27.5ゲーム差に沈んだ。
稲葉GMが二軍監督に就任した狙いとは
低迷の最大の因は戦力層の薄さだろう。
投手陣は加藤貴之、上沢直之、伊藤大海の3人が規定投球回数に到達するが、それ以外の先発要員が弱い。
打者に目を転じても松本剛と万波中正両選手が打撃10傑に名を連ねるが、クリーンアップ定着が期待された清宮幸太郎や野村佑希選手らが伸び悩む。
これらの誤算を埋めるべき人材が投打ともに育っていないのが現状だ。
特にチーム打率(.231)と同失策94が12球団ワーストでは浮上も見えて来ない。さらに来季はエース格・上沢のメジャー流失まで決まっている。
こうした危機的状況を打開するには、一人でも二人でも有能な若手を発掘、育成して一軍に送り出すしかない。そこで稲葉GMの二軍監督転出となったわけだ。
かつては大谷翔平やダルビッシュ有らを輩出した人材も、近年はドラフト戦略に陰りが見えている。
18年以降の直近5年間で見ると、ドラフト1位で活躍しているのは伊藤ただ一人。
吉田輝星、河野竜生、達考太、矢澤宏太らが主戦クラスに育っていない上に、1位以外でもレギュラー格は万波と野村くらいしか名前が浮かばない。
今秋のドラフトでは1位の細野晴希(東洋大)以下上位3選手に、いずれも大学生を指名。いかに即戦力を欲しているかがうかがえる。
新庄体制を全面サポートする一方で、球団には先々を見据えた戦略も求められる。
万が一、来季も不成績に終わるようだと「ポスト新庄」が現実味を帯びて来る。稲葉二軍監督の就任は、こうした布石の意味もあるはずだ。
若き侍ジャパンが集結したアジアチャンピオンシップでは、井端弘和監督が頂点に上り詰めた。日本ハム勢では、万波や“道産子左腕”根本悠楓投手が活躍して明るい材料をもたらしている。
「オール・ファイターズ」で臨む背水のシーズン。
いつまでもオリックスや阪神に「育成」のお株を奪われるばかりにはいかない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)