12月連載:逆襲へのシナリオ
2023年のプロ野球は岡田阪神の38年ぶり日本一で幕を閉じた。
「アレ(A・R・E)」で始まり「アレ」で終わった1年。勝者がいれば敗者もいる。泥沼の連敗地獄、屈辱の転落を味わったチームは、今、来季の巻き返しに動き出している。あるチームは新監督を迎えて体制を一新、またあるチームはトレードや若返り策に活路を求める。
春を迎えれば再び横一線の戦いと言われるが、特Bクラスに沈んだ軍団はかなりの覚悟で改造に取り組まなければ、上位進出もおぼつかない。何を変えて、どう浮上の道を築いていくのか? 敗者たちの今を追う。
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10月10日の対ロッテ戦。今季143試合目の最終戦が天国か地獄かの分かれ道となった。勝てばクライマックスシリーズに進出、日本一へ奇跡のシナリオが描けた。しかし、結果は完敗。2年連続のV逸の責任を取って石井一久監督は退任、代わって今江敏晃新監督が誕生した。
今季途中までは二軍打撃コーチだったが一軍の同職に就くと、一時は2割そこそこの不振に陥っていた打線は夏場を前に2割6分台まで急上昇。わかりやすい理論と明るい性格で選手とのコミュニケーションもうまくとりながら、戦力を建て直した指導力が監督抜擢の要因となった。
もっとも、全てがバラ色の船出だったわけではない。長く守護神を務めてきた松井裕樹投手がポスティングによるメジャー挑戦を表明。さらにチームの若返りを進めるため西川遥輝、塩見貴洋ら大量11選手に戦力外通告。その後にも炭谷銀仁朗選手が西武に移籍。生え抜きのベテラン・銀次選手も引退とチームの大改造が進められた。
そこへ降ってわいたような激震が襲う。中継ぎの柱として活躍してきた安樂智大投手のチームメイトへのパワハラ行為が発覚。球団による調査の結果、悪質な事件として自由契約が決まったのだ。安樂の行為そのものは論外だが、その波紋はチームの内外にまで及んでいる。
楽天では選手会による納会が中止、三木谷浩史オーナーは自身のSNSで異例の謝罪に追い込まれる。NPBでも全球団に宛てて、ハラスメント根絶のため相談窓口を設置、来春のキャンプでは全選手を対象とした講習会を開くこととした。
球界を揺るがす事件は、今江新監督の反撃構想まで狂わせた。何せチームの守護神と中継ぎエースが一度にいなくなれば浮上どころか、崩壊の危機だ。
今月5日、契約更改に臨んだ則本昂大投手が来季からクローザーに転向することを明らかにした。今江監督からは11月上旬に打診されたと言うから、安樂事件が直接、影響したわけではないが投手陣再編の重大テーマが先発エースにも及んだもの。
「松井裕樹が偉大すぎてしんどい」。突如の職場転向に戸惑いは見せながらも「監督の気持ちに、応えたい」と最後は男気を見せた。
今季のチーム成績を見るとチーム打率.244はリーグ3位に対して、同防御率3.52は最下位。ここに松井と安樂が抜けるのだから再建は楽ではない。
仮に松井の穴を則本が埋められたとしても、今度は先発陣が手薄になる。田中将大、岸孝之らのベテランはいずれも30代後半から40代に差し掛かっている。ここは早川隆久、荘司康誠、藤平尚真らの“若手ドラ1トリオ”の成長に期待するしかない。リリーフ陣でも「プラスアルファ」の台頭が求められる。
攻撃陣に目を転じると、今季は小深田大翔選手が盗塁王を獲得。小郷裕哉、村林一輝選手らがレギュラーに定着しつつある。今江監督は秋季キャンプで黒川史陽、武藤敦貴、平良竜哉の3選手を「強化指定選手」に指名、若手の底上げでチームの活性化を狙っている。
巨人やソフトバンクも同様だが、楽天は、これまでFAやトレードで強化を図ってきた。その分、若手の出番は奪われ、気がつけばレギュラー陣の高齢化が進んでいた。
一方でパ・リーグの下位に沈んだ西武は投手王国を作りつつある。日本ハムも積極的な補強と若手選手の成長で上昇カーブに乗る可能性はある。現実だけを見れば、今季より戦力ダウンの楽天に明るい材料を見つけ出すのは難しい。
まさにいばらの道を歩み出した今江新監督。ロッテでの現役時代には2度の日本シリーズでいずれもMVPに輝いた実力と強運の持ち主である。
災い転じて福と成す? 40歳。若き指揮官の明るさと思い切った若返り策でチームは生まれ変われるのか。今こそ球団挙げての改革が求められている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)