白球つれづれ2024・第1回
これがWBCと“大谷効果”なのか? それとも弊害なのか?
日本人選手のメジャー志向が止まらない。
昨年の暮れには、大谷翔平選手が10年、7億ドル(約1015億円)で、オリックスからポスティングで、山本由伸投手が12年、3億2500万ドル(約461億5000万円)で共にドジャースと超大型契約を結んでいる。(金額は推定、以下同じ)
その後も楽天から松井裕樹投手がパドレス入り。年が明けてもDeNAの今永昇太、日本ハムの上沢直之投手がメジャーとの契約を目前に控えている。もはやエース級と呼ばれる投手の米国挑戦は既定路線となりつつある。
“令和の怪物”ロッテ・佐々木朗希投手の初夢も太平洋を渡っていたに違いない。昨年の契約更改ではメジャー行きを直訴。さすがに時期尚早と球団側から却下されたが、そのまま引き下がるわけにも行かず、初の越年が確定。次回交渉で新たな要求を持ち出すのか、注目が集まっている。
すでにメジャー関係者から熱視線を送られている。先に米CBSスポーツが「次にメジャー球団と巨額契約を結ぶ日本の3選手」としてヤクルト・村上宗隆、オリックス・山下舜平太選手と共に佐々木の名を挙げている。中でも昨年は完全試合を記録、165キロの快速球とお化けフォークで三振の山を築く怪物の投手としての評価は「大谷以上」とう声まで聞かれる。佐々木獲りを狙うメジャー球団は最低でも山本の契約金3億2500万ドル以上の巨額を用意しなければならないだろう。
もっとも、現時点で佐々木のメジャー行きは現実的ではない。
来季プロ5年目を迎える佐々木の過去4年の実績は19勝10敗、防御率2.00。しかし、入団1年目は体力づくりに専念して登板はゼロ。2年目以降も中指のマメで戦列離脱したり、左脇腹の肉離れなど故障がついて回り、未だにフルシーズンを投げ抜いたことがない。
ちなみに日本ハム時代の大谷は米国に渡る前の5年間で42勝15敗。プロ3年目の2015年には最多勝と最優秀防御率のタイトルを獲得、その前年にはチームを日本一に押し上げている。
山本は4年間で21勝と、佐々木に近い成績だが5年目に18勝(5敗)と大ブレーク。この年も含めて、それ以降は3年連続投手4冠の無双状態でドジャース入団を決めた。
ロッテの恩師でもある吉井理人監督は、佐々木のメジャー志望は理解したうえで「自分だったら、球団にもうちょっと恩返ししてからでないとダメかなと思ったりする」と語る。それはファンの大多数の声でもあるだろう。大谷や山本の例を見れば、今季20勝しても彼らのレベルには達しない。常識的にはあと2年、圧倒的な成績を残せば条件をクリアすることになる。
今季、15勝以上の文句ない成績と優勝が実現すれば…
もう一つの大きな障壁は年齢的な問題だ。
メジャーリーグには「25歳ルール」が存在する。25歳未満か、プロ6年未満の海外選手はマイナー契約しか結べないと言う決まり。プロ5年、23歳でエンゼルスと契約した大谷は、日本ハム時代の年俸2億7000万円からマイナー契約となったため7900万円の低額でメジャー生活をスタートしている。
しかも同ルールが適用されれば、前所属球団に渡す譲渡金も低くなる。大谷の場合は約5000万円の譲渡金が日本ハムに支払われたのに対して、FA移籍の山本には約70億円の譲渡金が発生している。
佐々木が在籍しているうちに優勝して、25歳になってから送り出せば球団側も潤う。チームへの貢献度も加味すれば、すぐさまポスティングを認めるわけにはいかない、ロッテ側の事情もうなずける。23歳の5年目。大谷の渡米時と条件は一緒でも、まだまだ乗り越えるべき壁はある。
もし、こうした熱い壁を佐々木が打ち破るとしたら、今季の成績がすべてと言ってもいい。15勝以上の文句ない成績と優勝が実現すれば、球団側が譲歩する可能性は残る。
“令和の怪物”の異名に文句はない。しかし、一瞬の輝きではなく、シーズンを通して打者をきりきり舞いさせるのが本来の怪物の姿だ。
今季も佐々木の登板する試合にはメジャー関係者が大挙して駆けつけて熱視線を送り続けるだろう。170キロに迫る剛速球を一日も早くメジャーの舞台で見たいのも事実である。それには佐々木がもうひとつ進化を遂げる必要がある。
勝負の24年。佐々木朗希にとって、それは夢を現実とする戦いの始まりとなる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)