白球つれづれ2024・第2回
阪神の岡田彰布監督が、連覇に向けてぞっこんの男がいる。
昨年ドラフト2位で入団した門別啓人投手だ。今年の7月で20歳を迎える大型左腕。昨年の秋季キャンプで指揮官は「史上最高のMVP」と激賞して、「楽しみどころ、ちゃうよ」と今春キャンプの一軍入りを即決した。そればかりか、「開幕ローテも狙える」と最大級の期待を寄せて、オープン戦ではセリーグとの対戦には起用せず「もったいない。隠さなあかん」と秘密兵器並みの評価を与えている。
最速150キロ、右打者の膝元に食い込むクロスファイアーが持ち味の上に、コントロールも良く大崩れしない。肘が柔らかくてしなるので、軽く投げていても手元で伸びるため、打者は予測以上に食い込まれる。このまま成長すれば投手層の厚い阪神の中でもエース級になれる逸材だ。
昨年は村上頌樹、大竹耕太郎両投手が大ブレークして、優勝の立役者となった。チームには他に西純矢、湯浅京己、桐敷拓馬ら25歳以下の成長株がズラリ。そこに門別まで加われば、投手王国はさらに盤石となる。
岡田監督は新戦力を発掘する名プロデューサーでもある。前述の村上や大竹以外にも、ルーキーの森下翔太選手を辛抱強く起用して、クリーンアップの一角を任せるまでに仕立て上げる。中野拓夢選手とのコンバートで遊撃に起用した木浪聖也選手は“恐怖の八番打者”として機能させた。その慧眼に狂いがなければ、門別は虎のニュースターに育っていくだろう。
「谷繁二世」への期待高まるDeNA・松尾汐恩
1月8日は成人の日。近年は18歳で成人となり、20歳は「はたちの集い」として祝う形が一般的になりつつある。しかし、野球界で18歳は高卒ルーキーに限定されるため、いきなり一軍の戦力となるには、荷が重い。そこで当コラムでは今年20歳を迎える若駒の中から“ネクストブレーク”の期待される有望株に照準を当ててみる。
門別の次に名前が出てくるのはDeNA・松尾汐恩捕手だ。
球団ではあの谷繁元信氏以来、34年ぶりの高卒ドラフト1位指名で、期待の大きさがうかがえる。さすがに1年目は一軍での出番はなかったが(一軍登録は2試合あり)イースタンリーグでは104試合に出場して打率.277(リーグ5位)7本塁打、51打点と打撃でも非凡な能力を発揮。9月に行われた同リーグのヤクルト戦ではサイクル安打も記録している。
捕手と言うポジションは、高卒ルーキーにとってプロのスピードや配球術も学ばなければならない。加えて一軍には伊藤光、戸柱恭孝、山本祐大らの経験豊富な実力者が揃っている。そんな激しい競争を勝ち抜けば、一気にレギュラー捕手に躍り出る可能性はある。「谷繁二世」への注目度は高い。
巨人の浅野翔吾選手は勝負の2年目を迎える。
俊足、強打の外野手として1年目から24試合の一軍出場を果たしている。打率.250、1本塁打の評価は微妙だが、貴重な経験を活かしたい。チームも若返りの最中で将来的には1、2番打者として育てたい。秋のフェニックスリーグでは腰痛で途中離脱するなど故障の回復が待たれるが、巨人の外野争いは横一線。新生・阿部巨人の戦力として大ブレークを果たしたい。
意外なダークホースとしてオリックスから広島に移籍した日高暖己投手を取り上げる。広島からオリックスにFA移籍した西川龍馬選手の人的補償として指名された。20歳、2年目での移籍は心中複雑だろうが、広島にとって意外な掘り出し物となる可能性を秘めている。
宮崎・富島高からトラフト5位で入団。同じ宮崎の都城高出身の山本由伸投手に憧れて、投球フォームも参考にしたことから“由伸二世”とも呼ばれる。オリックスと同様に広島も若手の育成、抜擢には定評のあるチームだ。運命のいたずらが日高にどんな将来を用意するのか、見ものである。
毎年、育成選手を含めると120人近くがプロの門を叩く。この中で、一軍で活躍できる選手は一握り。さらにスターとしてチームの顔になれる男はもっと限られる。若いからと言って停滞の許される社会ではない。
一方で、有力選手のメジャー流失が相次ぎ、日本球界は次世代のスター出現を渇望している。成人の日を機に若者たちがどんな誓いを立て、ブレークにつなげていけるか?彼らにとっては自主トレ、キャンプからのアピールが飛躍の第一歩となる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)