白球つれづれ2024・第3回
新年早々の野球界を賑わしたのが、ソフトバンクと西武による移籍騒動だ。
西武・山川穂高選手のFA移籍による人的補償問題。今月11日に両球団から甲斐野央投手の西武入りが発表されたが、それまでの紆余曲折が波紋を広げた。
同日朝、一部スポーツ紙などで山川の人的補償に和田毅投手と報じられると、ソフトバンク球団には抗議の電話が殺到したと言う。
女性への暴行問題で無期限謹慎処分を受けていた山川の獲得に批判的な声の上がっていたところへ、左腕エースでチームの功労者である和田を放出とは何事か? と言う怒りが爆発。当初は昼過ぎには発表されると見られていた人事が夕方までずれ込み、結局は甲斐野の移籍が明らかになった。
両球団が果たして、和田の人的補償で一時は合意していたのか? 当事者の口から詳細が語られない限り、真相は藪の中だが、FAには「プロテクト枠」が設けられている。獲得球団は人的補償をする際に主力や有望選手をプロテクトし、それに漏れた選手が相手球団から指名されるもの。
つまり、和田も甲斐野もプロテクトされない選手だったわけだ。そこで、また鷹党の疑問の声が大きくなった。いずれにせよ、今回の混乱はソフトバンクフロントの手際の悪さが露呈されたものと言っていい。
そこで、甲斐野の移籍である。西武の関係者の中には「思っていた以上の成果」の声がある。本塁打王の山川の流失は確かに痛い。だが、一昨年オフにはソフトバンクへのFAが噂され、昨年は女性問題で大半がファーム暮らし。すでに球団内で、山川の流失は既定路線だった。
それなら、人的補償を利用していかにチーム強化につなげるか? 西武の現状を見れば、強化ポイントは二つ。打線の強化か、救援陣のテコ入れか。甲斐野はまさに後者にうってつけの人材だった。
甲斐野加入はドラ1をもう一人獲得したくらいの価値がある
ライオンズ投手陣の充実ぶりは近年目覚ましいものがある。
昨年は借金12で5位に終わったが、チーム防御率2.93はオリックスに次ぐリーグ2位。中でも先発陣は平良海馬の11勝を筆頭に髙橋光成、今井達也も2ケタ勝利を挙げれば、2年目の隅田知一郎が9勝、松本航が6勝で続くなど他球団を凌ぐ陣容を誇っている。
王者のオリックスが山本由伸や山﨑福也の移籍などで投手陣の再編を余儀なくされているのに対して、西武はドラフトでも即戦力左腕・武内夏暉を獲得。今や投手王国と言ってもいい顔ぶれだ。
そんな強力投手陣にあって、不安材料が救援陣だった。一昨年まで中継ぎエースだった平良の先発転向と守護神・増田達至の不振で「勝利の方程式」が崩壊。ちなみに一昨年のチームセーブ数は44だったのに対して、昨年は同35に激減、勝ちゲームを救援の失敗で失うケースもしばしば見られた。
セットアッパーと絶対的なクローザーの重要性は年々増している。分業制が当たり前の時代では勝ちパターンの7~9回をいかに盤石なものにするか。
王国づくりの最終ピースとして、西武は今オフ、元ヤンキースの163キロ剛腕、アルバート・アブレイユを獲得している。新守護神候補である。もちろん増田や2年前の新人王・水上由伸の復活も期待されるが、そこに甲斐野の獲得は大きい。
160キロの快速球に140キロ台のフォークを武器に昨季は46試合に登板して3勝1敗2セーブ、8ホールド。中でもソフトバンク時代の5年間で投球回数147回に対して奪三振は164個に上る。(20年は故障のため未登板)仮にアルバートや増田が不振の時にはクローザーも任せることのできる人材だ。
投手陣に比べて、ひ弱な打撃陣は蛭間拓哉、渡部健人選手ら若手の成長と新外国人、フランキー・コルデロらの長打力で底上げを図りたい。いずれにせよ、甲斐野の加入は武内以外にもう一人のドラフト1位選手を獲得したくらいの価値はある。
山川の移籍で打線の厚みを増したソフトバンクと、投手王国建設に突き進む西武。今回のFA騒動がペナントレースにどんな波乱を起こすのか?
甲斐野の右腕が“混パ”を演出してもおかしくない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)