肉から野菜へ180度振り切った食生活
変身左腕が中日の快進撃に乗っかった。
小笠原慎之介投手が4月10日のDeNA戦(横浜)で7イニング1失点、無四球投球で今季1勝をゲット。チームは2016年5月10日以来8年ぶり、日数にして2891日ぶりに対戦5球団を従える形になった。
「野手のみなさんに守っていただいて、得点していただいて、勝てました。イケイケで雰囲気もいいです」。背番号11はお立ち台で笑顔をつくる。
立浪監督は「1点とられたけれど、DeNAは打線を見てもいい打者がそろっている。その中で攻めて、7回までいってくれたのはよかった。昨秋からどんどん勝負していこうという中でやっている。四球も野球の中では出すことはあるけれど、いい効果が生まれてきている」と納得顔を浮かべた。
小笠原の変身は食生活からみてとれる。パワーの源は野菜となった。肉から野菜へと180度変えた。『肉食だから=強い肉体』とは限らないという。
「肉は完全食です。肉さえ食べていれば、大丈夫なんです」と語るようにこれまで野菜を食べることには興味もなかった。
それがどうだ。見向きもしなかった菜食主義に振り切れた。ネーム入りのマイ肉包丁は自宅キッチンの棚の奥にしまった。連日の朝食ステーキは、納豆と豆腐になった。「家にあっても無駄になるだけだから」と、買ってあったカレーなど保存食は知人に配った。今、自宅にあるカレーはヴィーガンカレー。肉を遠ざけた。
「最初に投げた次の日の体の体調がすごくよかった」
きっかけは昨季の体の状態にある。
「終盤、体が重かったんです。何でなのかな、と考えてみて、食べ物も要因かと思いました。体をつくるのは食事ですからね」
書店で本をあさり情報を得ているうちに、ノンフィクション番組に出会う。そこで、炎症からの回復スピードが速いのは実は野菜中心の食生活だと知った。
『野菜=弱いイメージ』を薄らげる内容だった。アメリカンフットボールのプレーヤーや格闘家にも、広がりつつあるという野菜中心の食生活。豆類はタンパク質の摂取効率が肉よりも高いデータに触れた。最後のひと押しは、古代ローマの剣闘士だった。近年の骨解析により、菜食主義者だったと判明している。妙に説得力を感じた。
「昔から野菜を食べる人は強かったんです。だって、ローマの戦士ですよ」
動物性の食事は「ストレスがたまらないように」と週一度ほどという。
「シーズン最初に投げた(2日・本拠地巨人戦)次の日の体の体調がすごくよかったです。野菜ばかりだと言って、体重が落ちるわけでもないですよ」
糖質はご飯で摂取。油分はアボカドやナッツ、食材を選んで料理したり、口に放り込んだりしている。
「まだシーズンは始まったばかりですし、今は体調がよくてもどうなるか分からないところもあります。元気だったら続ければいいですい、そうじゃなかったら、また考えればいんです。野球だっていろいろフォームやトレーニング方法を試行錯誤しながらやっています。食事もそのひとつ。身体は実験台です」
身体の内側か、食べ物で変化を感じている左腕。シャキシャキしたベジタブルでワンダフルな成績を残したい。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)