コラム 2024.06.06. 07:00

「野球しかやってこなかったから、何もできません」は絶対に違う! 高森勇旗氏が象徴する“無限の可能性”<後編>

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[撮影=戸張亮平]

興味があることへの追求の末にたどり着いた“コーチング”という天職


―― 引退後は、データアナリスト、ライター、野球解説者、企業のエグゼクティブコーチング会社『株式会社HERO MAKERS』代表取締役など、活躍は多岐にわたります。

 辞めてすぐはエンジニアの仕事をやりました。僕、元々パソコンがすごく得意だったんです。というのは、プロ1年目にMacbookを買ったのですが、当時、今とは違ってあまりWindowsとの互換性もなく、MacOSではInternet Explorerが見られなくて。どうしてもInternet Explorerでしか見られない動画を見るために、自分でめちゃくちゃ調べて、MacのハードでWindwsを立ち上げられるようにしたり、いろいろ研究したりしているうちにパソコンに詳しくなりまして。で、Excelや動画編集もできるようになり、スコアラーから試合後にビデオをもらってきて、自分のヒット集を作ったり、投手、捕手が誰で、どういう展開でどういうカウントになったか。どういうことをこの打席でしたかったか。その結果どうなって、次どうするかなどを毎打席Excelで打ち込んでいるうちに、タッチタイプもめちゃくちゃ速くなりました。


―― それがアナリストにもつながるのですね?

 アナリストは、当時、映画『マネーボール』が流行り始めて、野球のいろいろなものを指標化していこうっていう動きがあったんですよね。ただ、それはあくまで戦略指標で、球団のための指標。でも、選手からすると、「次の打者のOPS(On-base Plus Sluggingの略。打者を評価する指標の1つ)がいくつ」だと言われても、知りたいのは「次に何を投げたらいいの?」ということであって、肝心のその情報がなかなか出てこない。それをどうやって作れるかを考え、プログラム化し、デザインして、ある社会人野球チームに買ってもらって、一年間帯同していたという感じです。

 それと同時に文章を書く仕事もやっていました。プロ野球の現場、特に二軍って、人間ドラマが非常に面白いんですよ。それをもっとうまく表現したくて、自分で書いてみようかなと思ったのがきっかけでした。まず最初に同期・同級生の梶谷隆幸(現巨人)のことを書いた記事を出版社に持ち込み、掲載されると、160万PVぐらいハネたんですよ。それを機に、いくつか記事を書いているうちに、どんどん媒体が増えていき、2年ぐらい物書きとアナリストをやっていました。

 その中で、ライターの仕事は“勘”でやっていた部分もあったので、しっかりと学びたいなと思って、2014年に株式会社宣伝会議が開講している『コピーライター養成講座』に通い始めたのですが、これが本当に大きく人生を変えました。授業もめちゃくちゃ面白くて、コミュニケーションや言葉というものにものすごく興味が出てきたんです。それで、言葉やコミュニケーションを生かして、経営に近いポジションで仕事ができるところはないかな?と考えている時に、2015年、今の“コーチング”という仕事と出会いました。経営のコーチングをすることによって企業の変革を支援する。どう企業の潜在能力を引き出していくかという仕事で、「これだな」と思いました。


―― “コーチング”という仕事の内容を、もう少し具体的に説明していただけますか。

 “コーチング”とは、企業がどこを目指していくのかというヴィジョンを明確にし、目標設定、KPI、どうやってリソースを分配してマネジメントしていくかというところから、人々にアクションを起こしていく、それがきちんと起きているかの進捗を管理するところまで、全部やります。よく、「コーチングって、モチベーションとかですか?」と言われるのですが、モチベーションを扱ったことは一度もありません。モチベーションは確かに手段の1つですが、モチベーションが高くて動かない人はたくさんいますし、モチベーションが低くて結果出す人もたくさんいます。なので、どうやって結果を出すかだけにフォーカスをして、結果に到達させるというサポートが“コーチング”です。




今後、プロアスリートにとってセカンドキャリア以上に重要視されるべきは“サードキャリア”


―― 高森さんのように、今の現役プロ野球選手や他の競技のアスリートの中にも、それぞれの競技への突出した才能と同時に、別の分野での才能、可能性も秘めている選手はたくさんいるのではないでしょうか。ただ、その自分自身の才能を見つけるための時間があまりなく、気付けないままになってしまっている印象があります。

 その通りですね。大事なのは、その人が持った能力を使って価値を発揮すること。じゃあ「価値って何?』と考えると、すごくシンプルに言うと、他者に対して貢献できたかどうかだと思うんですよね。

 例えばアスリートであれば、一般の人よりも体力があることが圧倒的なアドバンテージになる。それを生かして、目の前の人に貢献して、次の仕事を生み出していくという、ただそれだけ。決してそんなに難しいことではないのに、みんな「俺、野球しかやってこなかったんで」から先が、「何もできません」って言うんですよ。でも、それは絶対に違う。野球しかやってこなかったので、「他のことに対する伸びしろが山ほどあります!」なんです。野球しかやってこなかっただけで、他のことができないかどうかなんてわからないわけですよね。もっと自信をもってやればいいのにと、相談を受けるたびに思います。


―― 近年はプロアスリートのセカンドキャリアについては社会的にも関心が高まり、サポート体制も充実してきているように感じますが、10年近く見てきて、高森さんは環境やアスリート側の認識に変化を感じますか?

 情報は大きく変わったと思いますね。社会問題としても、アスリートのセカンドキャリアをサポートをすべきではないかと、少しずつ関心が出てきたと感じます。アスリート側も、その情報に触れられるようになったという意味では、かなり変わってきました。

 でも、多くのセカンドキャリアを支援する会社のやっていることは、僕からすれば完全に『就職支援』であり、結局は人材派遣サービスなんですよね。「こういう大学出ました。こういうところで働いていたハイスペック人材がいます」と同じ感じなんですよ。「元プロ野球選手で、体力ある人材がいるので、ぜひ採用してみませんか」というね。これでは解決策にはならないんです。




―― 高森さんがライターとしてお書きになった記事を拝読した中に、「辞めたプロ野球選手の50%がなんらかの形で球団に残る。球団職員を経て社会に出ていく、言うなればサードキャリアこそが、いま、重要な問題」だと提起なさっていて、大変興味深いです。

 そこが一番の課題だと思います。そして、それは球団が守らなければいけないところで、球団職員向けのネクストキャリア指導は絶対やるべきです。というのは、球団職員は、競技に関わりながら、徐々に自分は選手ではないというフラストレーションを削除し、競技への距離を取ることができます。ただ、いずれは次々に打撃投手、ブルペン捕手などは入ってくるので、その時に例えば40歳でクビになった時に、社会の知識を蓄えるための教育はかなり必要ですね。その意味では、球団に残って年齢がいたずらに過ぎてしまい、35歳でクビになるよりは、22歳でクビになった方が、社会的な可能性としてはいいという話ですよね。


―― こうしている今も、将来に不安を抱いてるアスリートもたくさんいると思います。高森さんのようにポジティブなセカンドキャリアを過ごすためのアドバイスをぜひお願いします。

「辞めたところで大したことはない」ということですね。なので、「安心して選手生活をまっとうされてください」と言いたいです。人生あと60年ぐらいあります。なので、辞めてから考えても十分すぎるほど時間はあるので、落ち着いて人生の選択をやられてみてはいかがでしょうか。おそらく、いま心配していることは、ほぼ起こりませんよ。


―― 多才な高森さんとしては、ご自身の今後にどのようなヴィジョンを思い描いていらっしゃるのですか?

 僕は、「こうなりたい」などのヴィジョンを持たないですね。持つと、どうしてもそれに縛られてしまうからです。いろいろな人たちを見てきて、もちろん、この資本主義社会で生きていく中では、お金持ちになることは大事だと思います。ところが、お金持ちになったがために不幸になっている人もいる。事業拡大して自由度がなくなっている人もいます。最終的には、100億円を抱えて死ぬことよりも、多くの友達に囲まれて、「なんか、人生すげー楽しかった」と思って死ぬことがゴールだとしたら、「こうなりたい」というヴィジョンも持つと、そうはならない気がするんですよね。なので、その時その時を充実して、みずみずしく生きることが、最も幸せなことなんじゃないかなと、今は思っています。


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取材=上岡真里江
撮影=戸張亮平
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