コラム 2024.05.10. 17:30

劇的に改善された投手陣と小粒化する野手陣…“最後の長嶋チルドレン”阿部監督が「巨人2026年問題」に立ち向かうチーム作りとは?

無断転載禁止
巨人・阿部監督(左) (C)Kyodo News
「一切ないですね。そこまで気遣ってたら疲れるでしょ」

 2016年春、当時37歳の阿部慎之助にインタビューをした際、若手選手への𠮟り方で気をつけていることを聞くと、遠慮は一切ないと断言していたが、監督になった今は選手たちの接し方に非常に気を遣っているように見える。2012年の日本シリーズで中大の後輩・澤村拓一(現ロッテ)の頭を引っぱたいて喝を入れたことについて、8年前は「次は蹴りを入れるよ(笑)」とリップサービスをかましつつ笑い飛ばしていたが、あの頃とは球界の価値観も大きく変わった。平成から令和へ、世の中の変化のスピードは早い。そして、巨人軍を取り巻く状況も近年、大きく変わりつつある。


 今から20年前の2004年、巨人は圧倒的なブランド力と豊富な資金を背景にタフィ・ローズ、小久保裕紀、ロベルト・ペタジーニといったセ・パの大砲をかき集め、プロ野球記録の259本塁打を放ち“史上最強打線”と称された。原辰徳監督の最終年となった昨季もチーム打率.252、164本塁打は12球団トップである。だが、それだけ打っても2年連続Bクラスの4位と勝てなかった。すると、阿部新監督は真逆のベクトルともいえる、「守りの野球」を標榜したわけだ。


巨人に待ち受ける「2026年問題」とは?


 いつの時代も、新しいボスはどこかで前任者とは違う自分の色を出したがるものだ。今季の巨人はチーム打率.228、88得点はリーグ5位、本塁打12は同4位タイ。対照的に投手力は23年リーグ5位のチーム防御率3.39から、24年は同2位の防御率2.32(5月8日現在)へと劇的に改善している(今のNPBが極端な投高打低なのも事実だが…)。首位阪神を追走する2位につけているが、トレード組の高橋礼や泉圭輔、ドラ1ルーキーの西舘勇陽らストーブリーグに急ピッチで投手整備に邁進した成果がはっきりと見てとれる。昨季までなら、大勢や中川皓太が離脱した途端にブルペンは崩壊状態に陥っていただろう。


 ただ一方で、その反動で野手陣が急激に小粒化している印象は否めない。昨オフにウォーカーや中田翔を放出。特に3年契約の途中で自ら契約を破棄できるオプトアウト権を行使して、中日へ移籍した中田の穴は大きい。岡本のあとの五番を打てる3度の打点王を獲得した勝負強さがあり、その岡本が不振に陥れば代役四番を任せられる存在だったからだ。坂本休養時には、一塁中田・三塁岡本というオプションも可能だった。


 さらに捕手では昨季の打率.281・16本塁打のベストナインキャッチャー大城卓三が打撃不振から二軍調整中。同じく23年に打率.273・10本塁打とブレイクした21歳の秋広優人も開幕を二軍で迎え、今月7日にようやく一軍昇格したばかりだ。


 今の打線で長距離砲は四番の岡本和真しかいないが、近い将来、その岡本もメジャー移籍が有力視されている。海外FA権は30歳になる2026年に取得予定だが、本人のメジャー指向は強く、20代の内にポスティングでの移籍を目指す可能性も高い。松井秀喜以来の“不動の四番”の海外流出濃厚で、さらにチームを支えてきた坂本勇人も2年後の26年には38歳、丸佳浩も37歳の大ベテランである。


 いわば、巨人に待ち受ける「2026年問題」。年齢順で言えば、坂本や丸のあとは安心して岡本に継承できるはずが、仮にメジャー行きとなれば現場はあと数年で岡本に代わる柱を作らなければならない。これが90年代なら、逆指名ドラフトで高橋由伸、二岡智宏、阿部慎之助と毎年アマ球界の逸材をかき集め、急激な世代交代も可能だった。さらにFAで清原和博や江藤智といったスラッガーを獲得して、チームの土台そのものを大型補強で作り替えてきた。今思うと、球界を牛耳る「ジャイアンツ・アズ・ナンバーワン」のムチャクチャな時代だが、それを最大限利用したのが長嶋茂雄監督だった。


 巨大補強に邁進した長嶋巨人でプレーした第60代四番打者・落合博満が、引退後に「(長嶋さんの采配は)ペナント全部勝って、なおかつお客さんを喜ばせたいという野球だから。そんなことあり得ないけれど、それを求める人だから、どうしても無理しなきゃいけない」(VHS「長嶋茂雄 第三巻 背番号33の時代」/メディアファクトリー)と評していたが、残念ながら令和の巨人軍には、あの頃の松井秀喜や高橋由伸のような日本中が顔を知っているメガスターはいない。一流選手たちがこぞってMLBを目指す今の球界で、2000年に日本一に輝いた“ミレニアム打線”のような豪華メンバーを揃え、力で圧倒するような野球を追い求めるのはもう難しいだろう。


 原巨人のV3に貢献したアレックス・ラミレスは先日、自身のYouTube『ラミちゃんねる』で元木大介をゲストに招いた際に、現在の阿部巨人には新たな外国人野手が必要(球団は10日にエリエ・ヘルナンデス外野手の獲得を発表)と指摘しつつも、、「ジャイアンツは資金の問題もあるよね。「阿部監督、持っている駒で最善を尽くしてくれ」という感じなので、もう少しフロントから戦力を強化してもらえればいいよね」と近年の巨人のスタンスの変化を鋭く指摘している。
 

 当然、それは現場が最も敏感に感じていることだろう。だからこそ、阿部監督は、門脇誠や佐々木俊輔ら若手陣を底上げして、中堅組の吉川尚輝や大城をもう一度鍛えなおす。犠打を多用して泥臭くなんとか1点をもぎ取ろうとする阿部野球は切実であり、リアルである。正直、守り勝つ堅い野球というのは決して球場のファン受けがいいものではない。(そして試合後の阿部コメントもまだ固すぎる)。ただ、派手に打ち勝つ面白い野球をやりながら、さらにチームを再建するというのは新人監督には酷である。


 もうあの頃の巨人のような大型補強の連発が可能な時代は完全に終わった。昨オフの原監督の退任で、長嶋政権から続いた「平成の巨人軍」的な価値観がついに終わったとも言えるだろう。その現実を、世間的には無名な若い選手が並ぶ国産打線のスタメンを毎試合確認しながら、一抹の寂しさを感じつつも多くのファンは徐々に受け入れ始めている。


 振り返れば、阿部監督がプロデビューした2001年が長嶋監督の最終年だった。いわば、最後の“長嶋チルドレン”阿部慎之助が、長嶋巨人の幻想を終わらせる戦いが始まっているのである。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

【PR】読売ジャイアンツを観戦するなら「DAZN Baseball」

阿部慎之助監督のもと、新たなチーム作りを進める巨人。戸郷翔征を軸とした投手陣の整備、主砲・岡本和真のさらなる進化が覇権奪回のカギを握る!

「DAZN Baseball」とは、月額2,300円(税込)でDAZNのプロ野球コンテンツをすべて楽しめるプランです(月々払いの年間プランのみ)。

プロ野球だけを楽しみたい方は、月額4,200円(税込)のDAZN Standard​よりも1,900円お得に視聴できます。

POINT

ペナントシリーズ、交流戦、CSまで余さず堪能できる!

② オフシーズンもドキュメンタリーやバズリプレイなどコンテンツが充実!

毎月2,300円でライブ配信・見逃し配信・ハイライトまで視聴可能!

【PR】「DMM×DAZNホーダイ」でプロ野球を観よう!

「DMM×DAZNホーダイ」とは、DMMプレミアムとDAZN Standardをセットで利用できるプラン。

単体契約ならDMMプレミアム月額550円(税込)、DAZN Standard月額4,200円(税込)のところ、本プランなら月額3,480円(税込)だからとってもお得です。

POINT

① 「DMM×DAZNホーダイ」なら単体契約より月額1,270円(税込)も安い!

② DAZNだけの契約と比較しても月額720円(税込)お得に楽しめる!

③ 新規入会月から最大3カ月間、「DMMポイント」を550ポイント付与!

ポスト シェア 送る

もっと読む

  • ALL
  • De
  • 西