コラム 2024.05.13. 18:00

巨人・小林誠司が味わう5年ぶりの感触【白球つれづれ】

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巨人・小林誠司(右) (C) Kyodo News

白球つれづれ2024・第16回


「終わった選手」。一時期の輝きを失い、首脳陣の信頼も失った選手の末路は寂しい。多くの場合は、「整理リスト」に入れられ、退団の道を歩むことになる。

 巨人の小林誠司捕手も限りなくそれに近い一人だった。

 35歳の11年目。昨年の一軍出場は、わずかに21試合。華やかな戦場を離れて、出番を奪われ、大半を控えとして甘んじるしかなかった。オフには年俸1億円の4年契約が切れると、大幅ダウン。わずか3000万円のサラリーは、ある面“窓際族”を意味した。

 だが、人生、一寸先はわからないものだ。小林にとって失った信頼を一気に取り戻すチャンスが巡って来る。阿部慎之助新監督の誕生である。

 前任の原辰徳監督が、仕掛けを好む「動く将」なら、捕手出身の新監督は、まずディフェンス面から固めて隙のない野球を目指す。派手さはないがしぶとく守り勝つ「耐える将」と言っていいかも知れない。

 13日現在(以下同じ)首位の阪神と0.5ゲーム差に迫る阿部巨人。19勝16敗3分けの貯金3は、評価される数字だ。

 中でも特筆すべきはチーム防御率2.30と言う投手陣の頑張りだ。昨年の同数字は3.39と、リーグ5位。特に中継ぎ陣の崩壊がV逸の元凶と言われた。

 もちろん、オフには積極的な補強で投手陣全体の底上げを図ったが、阿部監督は、違う視点からチーム改造を狙っていた。すべてのデータを洗い出す中で、捕手の役割も見直していったのだ。

 近年、巨人の正捕手と言えば大城卓三が主に務めてきた。クリーンアップも打てる強打の捕手である。

 しかし、一方ではリード面や、窮地の投手を引っ張るリーダーシップ、さらには捕逸、後逸と言ったキャッチング技術などには物足りなさが残っている。捕手出身の指揮官はこのあたりを見逃さなかった。

 投手陣を前面に押し立てた、守り勝つ野球には、ベテラン・小林の経験と手堅さが必要と判断したのだろう。開幕戦こそ、先発マスクは大城に任せたが、徐々に小林の出番は増えて、今では正捕手の信頼を勝ち得つつある。


正捕手の座を明け渡してから5年の歳月を経て復活


 大城は現在、ファームで再調整に汗を流している。逆に一度は選手生命の終わりを覚悟したベテラン捕手は劇的な復活を遂げた。

 小林が正捕手として試合に出続けたのは入団3年目の2016年から18年までの3年間。いずれも100試合以上にマスクを被り、この間、強肩で盗塁阻止率12球団トップを誇り、WBCの日本代表に選出されるなど華々しいキャリアが記される。

 しかし、年々打撃成績は下降カーブをたどり、首脳陣の信頼を失っていく。加えて20年には左手尺骨の骨折などで長期離脱。原前監督からは「野球選手じゃない」「職場放棄だ」と酷評が浴びせられた。


 正捕手の座を明け渡してから5年の歳月が経つ。

 一度は「死んだ男」が溌剌としたプレーでチームを引っ張っている。

 10日から神宮球場で行われたヤクルト3連戦では、初戦に4年ぶりとなる本塁打を放てば、第2戦では貴重なタイムリー。さらに最終戦では21年以来の盗塁を記録するなど、攻撃面でも大きな貢献を見せている。上位で躍動する阿部巨人の隠れたMVPである。

 捕手と言うポジションは1人の正捕手が誕生すれば、それ以外は控えに甘んじるしかない。野手なら他のポジションに活路を見いだせるが、捕手はそうもいかない。

 過去を見てもソフトバンクの近藤健介、オリックスの頓宮裕真選手らは捕手から出番を求めてコンバートの道を選んだ。ましてや、一度は正捕手失格の烙印を押された選手が、元いた場所に戻るのは並大抵のことではない。

 阿部監督が見立てたとおりに、小林がこのままレギュラーに居続けられるのか? 大城や岸田行倫捕手らが、この先に立ちはだかるのか?

 夢見心地は一瞬。小林にとってチーム内競争に勝ち、ライバルチームを打ち負かす、息の抜けない戦いが続く。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

【2024年5月14日修正】記事公開当初、小林誠司選手のキャリアについてタイトルの「7年ぶり」、文中の「大半を二軍で暮らした。」としていた箇所は、筆者の誤認でした。おわびして訂正いたします。

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