白球つれづれ2024・第25回
これぞプロ中のプロ!年間を通してもめったに見ることの出来ないヒッグプレーを目の当たりにした。
14日にエスコンフィールド北海道で行われた日本ハム-ソフトバンク戦。 圧巻のシーンは7回表の攻防だった。
ソフトバンクは二死一塁から代走の周東佑京選手が二盗を決める。点差は1点のビハインド。一打同点の場面で打席に立った甲斐拓也選手が右前にポトンと落ちる安打。誰もが同点と思ったその時、日本ハムの右翼・万波中正選手からまさに矢のような送球が本塁ベース上に突き刺さる。伏見寅威捕手の構えるミットを降ろしたところに周東の足が滑り込み、タッチアウト。
どちらに転んでもおかしくないクロスプレーにソフトバンク・小久保裕紀監督がビデオ判定を要求するが判定は覆らなかった。
このスーパープレーが効いて、日本ハムは勝率5割復帰と3位再浮上を果たし、逆にソフトバンクは今季初の3カード連続負け越しを喫した。
似たような場面やケースはよくある。しかし、このプレーがおそらく今季の中でもナンバーワンとなるであろう大迫力を生んだのは、緊迫したクロスゲームの舞台に、これ以上ない役者が揃ったからだ。
二走の周東は、14日現在(以下同じ)31盗塁を記録して、両リーグダントツのトップを快走中。対する万波はこちらも両リーグトップの捕殺(この時点では8)を誇る強肩の持ち主。言ってみれば極上の「盾」と「矛」が相まみえたことになる。野球の醍醐味を凝縮した瞬殺だった。
普通なら二死後にフラフラと上がった打球なら、十中八九は本塁生還を許す場面である。走者は打球が前に飛んだ時点でスタートを切れる。しかも周東は日本一の俊足だから、確率は100%とさえ、思えた。
だが、「爆肩」の異名を持つ万波のレーザービームに加えて、日本ハムベンチは、いくつもの仕掛けを用意していた。
15日付日刊スポーツでは勝敗の分岐点を探る「ザ・ピンポイント」のコーナーで捕手の伏見から見たビッグプレーを分析している。
要約すれば、あの場面では周東の足を計算した外野の守備位置が徹底される。極端なほどの前進守備。さらに伏見は「(打たれても)万波方向に打球が行って欲しい」と右打者の外角低めを中心に配球を組み立てる。これも万波の人並み外れた強肩を計算した配球だ。
問題の本塁上クロスプレーでも“万波シフト”が敷かれる。通常、コリジョンルールでは本塁ベース上を走者のために開けなければならない。その場合、捕手はベースより前に出て捕球、タッチするケースが多いが、万波の場合は送球が強いため、ベース後ろに構えて捕球即タッチに行ける。このコンマ何秒の動きが明暗を分ける。まさにプロ中のプロの秘技が詰まった攻防だったのだ。
イチローの肩に、大谷のパワーを併せ持つ新怪物
かつてのイチローさんを思わせる万波のレーザービーム。敵将の小久保監督は「周東をあそこでアウトに出来る万波の送球は見事。新庄監督が就任して外野の守備力はアップしている。彼らの成長を目の当たりにする」と最大級の賛辞を送った。
この日の万波はバットでもスケールの大きさを実証した。
4回、同点とする11号本塁打は打球速度180キロとドジャース・大谷並みの破壊力で左翼スタンド中段に運んだ。
イチローの肩に、大谷のパワーを併せ持つ新怪物は、昨年24本塁打を記録して本塁打王にあと1本と肉薄した。40ホーマーを目標に掲げる今季は他球団のマークも厳しくなり、苦しんでいるが対ソフトバンク3連戦で2発は夏以降の爆発も予感させる。
オールスターファン投票ではパ最多131万票以上を集めてトップ当選。今や全国区の人気を誇る。
すでにMLB関係者も24歳の“ダブル・バズーカ”の持ち主に熱い視線を送っている。ヤクルトの若き三冠王・村上宗隆選手とは同じ2000年生まれ。その才能は見劣りしない。
「近い将来には大スターに育っているでしょう」と新庄剛志監督も予言する秘蔵っ子。これに確実性が加われば、スーパースターに成長するはずだ。
万波の才能が開花した時、日本ハムはもっと強く、楽しみなチームに生まれ変われる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)