コラム 2024.08.05. 18:00

“聖地”甲子園が揺れている【白球つれづれ】

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第106回全国高校野球選手権大会 (C)Kyodo News

白球つれづれ2024・第28回


 夏の高校野球がいよいよ7日から阪神甲子園球場で開幕する。

 正式名称は「第106回全国高校野球選手権大会」だが、高校球児が憧れる甲子園球場は今年が開場100周年。喜びも悲しみも見守ってきたグラウンドが今では“聖地”と呼ばれるようになって久しい。

 球場開設日となった8月1日には、プロ野球伝統の一戦、阪神vs巨人戦の試合前に豪華なセレモニーが行われた。

 吉田義男、小山正明、田淵幸一、掛布雅之、真弓明信ら虎のレジェンドに往年の三冠王、ランディー・バース氏も米国から駆けつける。

 一方の巨人からは王貞治現ソフトバンク球団会長や松井秀喜、桑田真澄、清原和博氏らがビデオメッセージを送り、3連戦では掛布対江川卓の名将負の再現や吉田元監督と元巨人・堀内恒夫氏による始球式が行われるなど、登場人物だけで甲子園の歴史が彩られた。

 このTG3連戦は阪神の3連勝、一時は巨人の首位独走を許したかに思えたペナントレースも、同時点で阪神が0.5ゲーム差に肉薄する。これも甲子園効果だったかも知れない。


 1世紀も時を刻めば、歓喜の時とは別に、多くの難問にも直面してきた。

 そして今、大きな問題となっているのが記録的な地球温暖化と高校野球の改革である。地方大会は全国各地で行われるが、最後の決戦の舞台は甲子園だ。すなわち高校野球の改革と甲子園大会の変革は同じ課題を抱えている。

 今月2日、日本高野連はオンラインによる理事会を開催、この中で「高校野球7イニング制に関するワーキンググループ」(以下WG)の設置を発表した。

 近年の異常な酷暑への対策や、選手の健康面に配慮した施策が話し合われてきたが、今年の4月には医療関係者を含めた有識者で話し合うWG設置。この中で従来の9イニング制から7イニングに短縮する案も検討されていると言う。

 この数年、地方大会などでは暑さのために熱中症に似た症状の選手が出たり、足がつって飲料水を補給したりする場面は急速に増えた。

 甲子園での本大会でも、試合途中の「給水タイム」が採用されたり、今年からは、炎熱対策として朝夕二部制のナイター試合も一部導入される。さらに同球場では名物の銀傘を2028年までにアルプス席まで拡張する事が発表された。これも暑さ対策の一環である。


大きな転換期を迎えている高校野球


 しかし、検討の進む7イニング制が仮に導入されれば、野球そのもののあり方から、指導、戦術面まで大きく変わって来る。

 すでに高校野球の現場では様々な反応が出始めている。以下は日刊スポーツ紙面で紹介されている意見から一部を抜粋する。

 まず、現在の高校野球界をリードする大阪桐蔭・西谷浩一監督は「私個人としては9回でやって欲しい。野球は9回だと思っている」と語れば、兵庫の雄、報徳学園・大角健二監督は「どの競技も、社会の流れもそうですし、進化していくことは必要」と正反対に近い考えを明らかにする。

 さらに高校日本代表の監督歴もある明徳義塾高の名将・馬淵史郎監督は7回制に移行する前に少しでも選手の負担を減らすDH制の導入を提言している。まさに三者三様。今すぐに結論が出る話ではなさそうだ。

 世界のアマ野球の多くは7回制を採用している。かつてのような延長無制限や、1試合で200球以上を投げる「根性物語」はさすがになくなったが、もはや小手先の改革では済まされない時代に突入している。

 以前の当コラムでも触れたが、夏の予選から本大会までの過密日程と開催時期は現行のままでいいのか? 本当に甲子園大会は8月開催でなければならないのか? 高校野球には教育の一環として文部省が絡み、春は毎日新聞、夏は朝日新聞が主催に名を連ねる。彼らが青少年の健康問題と地球温暖化に警鐘を鳴らすなら、この問題もまた避けては通れない。

 日本高野連の井本亘事務局長は「高校野球は大きな転換期にあり、岐路に立っているんじゃないか」と語っている。

 満員の虎党の歓声に揺れるだけならいいが、高校野球の“聖地”としても揺れる甲子園。伝統と変革は常に背中合わせにある。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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