「どんな結果になっても最後まで走りきろうと」
ハラハラしながら中日・福谷浩司の今季初勝利を見届けた。
8月23日の巨人戦(東京ドーム)で6イニングを2失点に抑えた。これが今季初先発。白星は1年ぶりだった。
ドキドキしながら上がったマウンドで仕事を果たした。試合終了の瞬間を見届けると、両拳を力強く握り締めた。
「最低限ですけど、先発の役割を果たせたことにホッとしました。勝つまで、すごく長く感じました」
白星は昨年5月23日の広島戦(マツダ)以来だった。
今季3試合目のマウンドで、先発自体が1年ぶり。初回に2失点して、自軍の2点先制を吐き出した。ここで、ひと息ついて自分を落ち着かせた。「少し迷った部分もあったけど、これが最後かもしれないからやってきたことをやろう」と言い聞かせたという。
技術で優勝を狙う巨人の勢いを止めるプレーも飛び出した。2回無死一塁。バントに対してマウンドを駆け降りて捕球、振り向きざまに二塁へ投げて併殺を取った。6回は打席にも立ち、その裏はモンテスを遊ゴロに、岡本和真を中飛に、大城卓三を捕ゴロに打ち取った。クリーン・アップを3人斬り。2点リードでブルペンに試合を託した。
リリーフと先発、“何でも屋”として開幕した。4月中旬の昇格もロングリリーフ要員だった。そこからは長い2軍生活。ウエスタン・リーグで成績を残し続けることだけが、光の当たる場所へ戻る方法。気持ちをつなぎ留めて、チームメートのケガもあって、チャンスを得て、白星をつかんだ。
記者がハラハラしたのは5回の打席に立ったから。5イニングで降板で勝ち投手なら、次の登板も用意されるだろう。
だが、もし、6回に追いつかれたり追い越されたりしたら、立場はどうなるか分からない。33歳。来季を保証される立場でないことだけは、本人が一番分かっていた。だからこそ、勝って次のチャンスがあればな、と勝手ながら思っていた。
「交代はベンチが決めることです。僕は投げるつもりでいました。数年前なら『5回で代えてくれ』と思っていたでしょう。確かに6回に打たれていたら、どうなっていたか分かりません。そういう意味では、ギャンブルに勝ったのかな」
こちらの心配は杞憂(きゆう)に終わった。
7月には高校野球、愛知大会を見に行った。プロ入り後初めてだったそうだ。母校・横須賀高がナインの姿に心を打たれた。一生懸命な球児を見つめるうちに自分を省みた。
「野球を通じて家族やファンの方にどんな姿を見せたいのかを考えるきっかけになった。どんな結果になっても最後まで走りきろうと」
観戦以降は2軍3試合で防御率0・93。昇格の知らせをかみしめて、敵地で堂々と投げきった。
竜一筋、プロ12年目の右腕。チャンスを得て、応える。その連続で今季を締める。
文=川本光憲(中日スポーツ.ドラゴンズ担当)