白球つれづれ2024・第39回
DeNAベイスターズが、下剋上で日本シリーズ進出を果たした。
セ・リーグのクライマックスシリーズ・ファイナルステージは21日、3勝3敗で並ぶ巨人とDeNAが最終決戦。手に汗する熱戦はベイスターズが主将・牧秀悟選手の決勝タイムリーで3対2の接戦を制して、リーグ戦3位から勝ち上がった。
巨人の1勝アドバンテージを除く全6戦中、1点差ゲームが4試合。ベイスターズの今シリーズ最多得点が第6戦の3点だから、およそ強打が看板のDeNAには似つかわしくない戦いが続いた。それを勝ち抜けたのは短期決戦に突入してからのチーム全体の変身だった。
ファーストステージの阪神戦から勝ち上がった直後、チームに激震が走る。
大黒柱の東克樹が阪神戦で左太もも裏の肉離れを起こして戦線離脱。新守護神の森原康平も右肩コンディション不良を訴えて、対巨人の初戦はベンチから外れる。レギュラー捕手だった山本祐大は9月に右尺骨骨折でいない上に、伊藤光捕手もふくらはぎの肉離れで登録抹消。
さらに主軸の宮﨑敏郎選手まで右下肢のコンディション不良で出場を危ぶまれていた。故障者だらけの進軍。誰もが巨人の優位を予想したはずだ。
しかし、故障者続出の組織は逆に、みんなでまとまるしか戦う術を持たない。下馬評で不利と思われる軍団は守るものがない分、開き直って戦える。そこに下剋上のわずかなチャンスがあった。
ファイナル初戦は先発のアンソニー・ケイが巨人打線を6回無失点に抑え、昨年巨人を戦力外になった堀岡隼人が中継ぎで力投、最後は伊勢大夢がセーブを上げて逃げ切る。
第2戦は大貫晋一の好投にタイラー・オースティンの一発。第3戦は3回に牧の超美技がチームのピンチを救う。一死満塁から巨人・大城卓三選手の鋭い一打がセンターに抜けようかとすると牧が横っ飛びで好捕。そのまま4-6-3の併殺を完成させる。このファインプレーが効いて最少リードを吉野光樹、佐々木千隼ら5投手の小刻みなリレーで逃げ切った。
そして、五分に戻された最終第6戦では22歳の成長株・森敬斗選手らの働きで同点に追いつくと、最後は牧が巨人・菅野智之投手から決勝打。投げては伊勢が2イニングの好投で勝利投手となる。
ちなみに大貫はシーズン6勝7敗。ケイは6勝9敗。こんな心もとない先発陣が巨人の戸郷翔征、菅野といった球界を代表するエースに投げ勝ったのだ。全6戦で9失点、東の抜けた投手陣を好リードと打撃で支えた戸柱恭孝選手が今シリーズのMVPに輝いたのも納得である。
これまでのベイスターズと言えば、古くは前身の大洋時代から豪快な打線が売り物で、ち密な野球からは縁遠いチームだった。それが接戦になると脆さを露呈して頂点を掴みきれない要因となってきた。
たが、このクライマックスシリーズに入ると小技も使う。機動力も駆使する。さらに三浦大輔監督の采配も迷いがなくなって接戦に強みを発揮した。幸か不幸か。傷だらけの進撃はチームに新たな変身の活力を与えたのかも知れない。
日本シリーズ進出を決めた直後の22日、球団は三浦監督の来季続投を発表した。指揮官にとってこれほどの発奮材料もない。
球史にあって、リーグ戦3位から日本シリーズでの下剋上に成功したのは2010年のロッテ(対中日)ただ1球団のみだ。17年にDeNAも同様なチャンスを掴んだがこの時はソフトバンクに敗れている。
今度もソフトバンクとの激突になる。シーズン91勝、クライマックスも難なく勝ち上がってきた小久保ホークスに対して、ベイは71勝69敗3分け。わずか貯金2で勝ち上がってきた。評論家の大方の予想はソフトバンク優位となるだろう。
辛うじて予選を勝ち上がってきた集団が、最後にジャイアントキリングを起こすのが下剋上というものだ。
14年ぶりに完全な下剋上は成し遂げられるのだろうか?
大谷のドジャースばかりが野じゃない。最後に番長流で締めくくろう。
「日本シリーズもよろしく!」。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)