白球つれづれ2024・第40回
今年のプロ野球ドラフト会議が今月24日に行われた。
最も注目を集めたのは明治大の宗山塁手だ。
西武、広島、楽天、日本ハム、ソフトバンクの5球団が競合する中で楽天の森井誠之球団社長がアマナンバーワンの即戦力遊撃手を引き当てた。
今ドラフトで、宗山と人気を二分したのは関西大の金丸夢斗投手。こちらは中日、DeNA、阪神、巨人の4球団がくじ引きの末に、中日が獲得。当たりくじを引いた瞬間、中日の井上一樹新監督は大きく左手でガッツポーズ、「肩を脱臼した!」とおどけながら、喜びを爆発させた。
プロのスカウトから「20年に1人の逸材」と激賞されたのが宗山である。
東京六大学では、早くから走攻守三拍子揃った選手として高く評価されてきたが、中でも話題を呼んだのは昨年の侍ジャパンでプロに交じって選出されたことだろう。
自身も現役時代は名ショートとして鳴らした井端弘和監督が、目の前でフィルディングを見ると「何も治すところがない」と激賞したのは有名な話だ。
打っても六大学史上12人目の通算100安打以上を記録して、パンチ力もある。特に守備は幅広い動きに、華麗なグラブさばきと強肩で非の打ちどころがない。今すぐでも、プロナンバーワン遊撃手と呼ばれる西武・源田壮亮選手に匹敵すると文句なしの評価を受けている。
広島・広陵高から明治大と言えば、DeNA・佐野恵太選手や今季限りで広島を現役引退した野村祐輔投手らを輩出している。
楽天に目を転じるとこちらも島内宏明、阿部寿樹、渡辺佳明選手ら明治大OBが多い。中でも有名な同大OBと言えば2013年に球団創設初の日本一に導いた故・星野仙一元監督だ。
この日のドラフトで強運を発揮した森井球団社長も当日前夜はなかなか緊張で寝付かれず、その時に夢で星野氏が「東北のためにも、絶対に(当たりくじを)引いてこい」と叫ぶ夢を見たと言う。これもまた運命なのだろう。
過去のドラフトを振り返ると「20年に1人の逸材」と呼ばれた男は数えるほどしかいない。今でも圧倒的な名選手と記憶される中で、イチローは1991年に愛工大名電高からドラフト4位でオリックスに入団。三度の三冠王に耀いた落合博満は78年のドラフト3位で社会人の東芝府中からロッテ入りしている。
近年ではソフトバンク時代の千賀滉大投手(現メッツ)や甲斐拓也捕手らが育成枠から成り上がっている。ドラフト上位組だけが将来を約束されているわけではない。
球団ごとの編成事情や、将来性に目を向けて、スカウトの「眼力」も問われるのがドラフト。プロ入りに際して「目標は開幕スタメンと新人王」と語った宗山だが、同時に「(同じ遊撃手の)村林選手らには自分から積極的にアドバイスを聞きに行きたい」とどん欲な姿勢ものぞかせている。
ショートと言うポジションは「替えの利かない」内野の要であり、広い守備範囲も求められるから長年、レギュラーを張るのは大変な激務である。
巨人の名ショートと呼ばれた坂本勇人選手は高卒2年目から大抜擢された。19歳でいきなり144試合出場を果たすと、昨年途中まで実働17年間、チームの主軸として活躍してきた。それでも昨年途中から腰痛などの「勤続疲労」に悩まされて、今季からは三塁に完全コンバートされた。現在36歳。もうショートを守ることはほとんどないだろう。
球界を代表する息の長い選手を目指す宗山には、故障に強い肉体を手に入れて一日でも長く華麗な遊撃手でいて欲しい。
楽天は今季もBクラスに終わり、今江敏晃監督が解任され、三木肇監督が5年ぶりに返り咲いた。しかし、投打ともに絶対的な切り札が見当たらず、レギュラーの高齢化も進んでいる。スター不在の中で宗山の入団は、こうした悩みを解消してくれる起爆剤ともなり得る。甘いマスクはすでに女性ファンのハートを射貫いている。
「20年に1人の逸材」のレッテルは重い。それでも宗山はそんな重圧をはねのけることが出来るのか?
ドラフト史にまた新たな一章が記された。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)