「自分の思うタイミングで投げられていなかった」
苦しみ抜いた1年を、タイガースの村上頌樹は「経験」というプラス要素に変えて気持ちを前へ向けた。
13日の契約更改の場で7勝11敗に終わった今季を「昨年と比べると(成績が)落ちてるので、良かったというのは言えないですけど、色々しんどかった時期があったので、その中でもしっかり試行錯誤してできたのが良かった」と振り返った。
「いろいろフォームのタイミングを変えたり、カーブもしっかり球速差をつけたりとか、変化球と直球の球速差をつけていろいろできた」
70キロ台も計測したスローカーブをはじめ投手としての“引き出し”は増えた。ただ、様々な選択肢を迫られたのにも理由がある。
「(昨年は空振りを)取れていたところがファウルになったりして粘られたのが多かった」
昨季、彗星のごとくローテーションに加わり、快投を連発した右腕を支えたのが直球だった。村上の直球は独特でナチュラルに横曲がりする「まっスラ」。相手打者のバットはことごとく空を切り、最後まで大きく攻略されることはなかった。
そんな“魔球”が今季は鳴りをひそめた。なぜか。原因はフォームにあったそうだ。
「フォームの部分が関わっているかなと思っている。ちょっと体の開きが早かったり、自分の思うタイミングで投げられていなかった」
「まっスラ」を投げる投手は村上だけではない。そんなボールを唯一無二のウイニングショットに変えたのが「間」を生み出すフォーム。
昨年1月、合同自主トレを行う先輩の青柳晃洋の助言もあって、踏み出す左足が着地してから腕を振ることを意識付けすると見える景色が変わった。胸の開きをギリギリまで我慢できるようになり、左足の着地とリリースまでに絶妙な「間」ができ打者はタイミングを取りづらくなった。
勤続も疲労も影響したのか、今季はそのフォームの再現性を欠いた。思うような直球を投げ込むことができず、数値上も「まっスラ」の成分が低下。飛躍を遂げた23年シーズンとは対照的に苦闘の連続で必死に走り抜けた1年だった。
今オフは再び23年のボール、ひいては投球フォームを取り戻すべく「自分の体をしっかり動かせるように」とウエートトレーニングなども取り入れてフィジカルの強化を始めている。
「空振りを取れるまっすぐを投げたいと思っているので。体をしっかり使えれば投げられるかなと思う。しっかりそういうトレーニングをしていきたい」
来季の目標には今季の勝敗(7勝11敗)をひっくり返す意味で自己最多の11勝、防御率1点台、160イニング突破を掲げた。
すべては、思い描く理想のフォームで腕を振れるか。昨季のリーグMVP右腕の真価が問われる1年になりそうだ。
文=遠藤礼(スポーツニッポン・タイガース担当)