コラム 2025.01.27. 18:45

W殿堂入り、イチロー氏が唱え続けるもの【白球つれづれ】

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米国野球殿堂博物館で記者会見するイチロー氏 (C)Kyodo News

白球つれづれ2025・第4回


「用がないなら、出て行って!」

 在りし日のマリナーズのロッカールーム。担当記者による質問が途切れると選手・イチローは言い放った。

 これは、今月NHKで放送されたイチロー氏の特集番組の一コマだ。的を射た質問には理路整然と答えるが、ピント外れの質問にはピシャリと拒絶する。

 オリックス時代もそうだった。記者としても、生半可な質問は出来ない。取材する者とされる者。ここでもプロはプロを求めた。それがイチロー氏の一貫した姿勢だった。

 1月16日に日本の野球殿堂入りが発表され、イチロー氏(現マリナーズ会長付特別補佐)は有資格1年目で選出された。

 満票による選出が予想されたが、349人の投票で323票。26人が「イチロー」の名を書かなかった。これには表彰式に同席した王貞治現ソフトバンク球団会長が「中には、へそ曲がりもいる」と吐き捨てた。

 それから6日後の日本時間22日には米国の野球殿堂入りも決まる。こちらも満票には1票足りなかったが、日本人初の偉業が色褪せることはない。こちらに対してはイチロー氏自身が、投票しなかった記者に向けて「(自宅のある)シアトルに招待するから、お酒でも酌み交わしましょう」とジョーク。

 会見の席では、満票でなかったことに触れ「すごく良かったと思う。自分なりの完璧を追い求め、進んでいくのが人生。やっぱり不完全はいいな」と名言も残している。期を同じくして発表された日米殿堂のW受賞。併せてマリナーズ球団からは背番号51を永久欠番とすることも明らかにされた。稀代の安打製造機は、また一つ「神」への階段を登った。

 日米通算4367安打。日本では7年連続首位打者に輝き、メジャーでも10年連続で200本安打以上とゴールドグラブ賞を獲得。中でも2004年に記録したシーズン262安打は、未だに破られることのない金字塔として記憶される。バットマンとしてだけでなく、右翼からの強肩は「レーザービーム」として絶賛され、幅広い守備は「エリア51」と称された。

 19年に及ぶMLBの生活は最初からバラ色だったわけではない。

「非力で線の細い日本人に何が出来る」という偏見をバットで黙らせ、走攻守三拍子揃ったダイナミックなプレーで賞賛を集めていった。

 大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希らが当然のように海を渡れるようになったのも、イチロー氏や野茂英雄氏ら日本人パイオニアの存在を忘れるわけにはいかない。

 51歳のイチロー氏は、現在所属するマリナーズの「インストラクター」として主に若手選手の指導やアドバイスをするかたわら、シーズンオフには日本に戻ってアマチュア野球の普及育成活動に携わっている。

本来なら日米のプロ監督になってもおかしくない実績を有するが、本人の希望は高校球児を教えたり、女子高校野球選抜チームと親善試合を行うことで競技人口の拡大に貢献する事。まさに「野球伝道師」をライフワークとしている。

そんなイチロー氏が、近年の野球界の風潮に警鐘を鳴らし続けている。データ化が進む一方で、個人の持つ感性やひらめきと言ったプレーヤーが独自に持つものが失われていく風潮に対してだ。

「せめて子供たちが向き合う野球は純粋なものであって欲しい。変えてはいけないものもある」

 2000年代初頭の頃から、メジャーリーグでは「スタットキャスト」「セイバーメトリックス」と言ったプレーを数値化した電子機器が幅広く採用されるようになった。今では投手の投球回転数から変化球の曲がり幅に配球パターン。打者ならスウィングスピードや打球方向などあらゆるものが数値化されて試合に生かされる。試合中に選手は相手と対峙するより、タブレットで研究に余念がない。

 だが、スポーツ本来の持つ「速く投げ、強く打って、走り回る」魅力は機械化だけでいいのか?「すべてがデータで管理。頭を使わない。年々野球の面白味がなくなっている」と言うのがイチロー氏の持論だ。

 内外角に高低。どのコースに来ても打ち返し、安打にしてきたのがイチロー流の技術である。そこにはデータだけに捕らわれない長年蓄積された経験と高度な術があってこそのプロの究極の姿がある。

 高度な技術の進化は、時としてスポーツそのものの魅力を失いかねない。今や中学、高校でもデータ野球が幅を効かせている。

 そうした中で、「神」にも近づくイチロー氏が鳴らす警鐘を野球界全体で考える時期に来ているのかも知れない。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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