前田会長は福岡第一高校でエースとして春夏合わせ甲子園に2度出場し、前述の通り甲子園の決勝まで進出した経験を持つ。しかし当時はグラウンドの中はもちろん、グラウンドの外でも「野球以外の厳しさ」が付きものだった。
「僕らの時代は目上の人にしばかれて当たり前、水も勝手に飲めなかった時代です。その指導を否定しているわけではありません。あの当時はそれが当たり前で、現代ではそれが当たり前ではないだけですから。
でも時代が変わったのに、『指導者が変わることができていない』と思えるような光景が、野球のグラウンドにはまだまだあるように思います。ですから、都筑中央を卒業して高校でも野球を続ける子どもたちには『(進学した高校の野球部で)理不尽と思うような練習、指導があるかもしれないが、今の時代でもそういった指導をする人もいるよ』という話しはするようにしています」。
取材をした小学部の子どもたちは、前田会長の事を「優しい」「面白い」と口を揃える。
練習取材中にたとえばこんなシーンがあった。
前田会長が内野ノックをしている時(この日は大須賀監督が不在のため前田会長自らがノックを行った)、ファーストに打った比較的イージーなゴロに子どもが追いつけずに後逸した。次の瞬間、前田会長はファーストの子に笑い混じりで励ますようにこう言った。
「おーい、○○ちゃーん!手を伸ばそうよー。捕れるよ捕れるよー!」
言われた子どもは、ちょっとはにかんだ表情を浮かべると、すぐに元気良く次のボールに食らいついていた。そこには「萎縮」という言葉とは正反対の、「のびのび」とした子どもの姿があった。
前田会長のノックを見ていてもう一つ気がついた点があった。それは子どもたちに対して命令口調を使わないということだ。
「捕れ」「やれ」「打て」と命令口調で子どもたちに接する指導者も多いと思うが、前田会長は「〇〇をやろう!」「○○本打とう!」と子どもたちに対して上からものを言わない。何気ない光景だったが「子どもたちの目線に合わせた指導」を垣間見た思いがした。
「子どもたちを指導する上で決して怒らないようにしています。子どもたちの目線に合わせて、指導者が目線を子どもの目線に下げることが大事だと思います。でも注意すべき点は注意します。やるべきことをやらないと、周りから置いてかれてしまうよと説明します。僕の場合は優しいから、今日はちょっと緩んでいるのかもしれませんけどね(笑)」。
お子さんをチームに預ける親御さんと、練習に励む子どもたちの目的はシンプルだ。
「野球がうまくなりたい」
至極当然ともいえる、その目的を達成するための環境が、この小さな都筑中央ボーイズのグラウンドにはあるように思えた。
(取材・児島由亮 写真・編集部)