ニュース 2018.09.28. 15:04

【今、野球と子供は。】サッカーに大きく水をあけられた野球の「普及活動」

親を「野球ファン」にする必要性

未就学児、低学年の普及活動でもう一つ重要なことは「親を巻き込む」ことだ。NPB各球団の普及活動の多くは、親子での参加であったり、親の見学を許可したりしている。
今の子供の親の世代の多くも、野球に親しみがなくなっている。
幼稚園、保育所の取材をしていてたびたび耳にするのは「シングルマザー」の存在だ。今は男親がいない家庭がかなり多い。こういう家庭では野球に触れる機会はほとんどない。両親が揃っていても、父親が野球に興味がない場合も多い。
今の幼児とその親は、基本的に「野球を知らない」と考えるべきである。子どもがスポーツを選択する動機として「親」の存在は非常に大きい。子どもが興味を持った時に、親がトリガーを引いてスポーツを選択させることが多いのだ。
つまり幼児、低学年への普及活動をする際は、「親」へのアピールが非常に重要なのだ。あるプロ球団の関係者は「若くてスマートな元プロ選手のコーチが親切に指導をすることで、母親をファンのすることが重要」と語る。
こういう普及活動の現場で、旧来の野球好きの父兄のように「少々厳しくてもいいから、我が子を鍛えてやってほしい」という親はまずいない。
自分の子が大事に扱われていること、そして楽しそうにしていることを親にアピールすることが非常に重要だ。
「親の視線」を常に意識して、親も「野球好き」にしてしまうような指導をすることが非常に重要だ。

「体験」レベルの野球、「教室」になっているサッカー

プロ野球の普及担当者に聞くと、幼児、低学年への普及活動は「まだ結果が見えない」としながらも「それなりに手ごたえがある」との答えが返ってくる。
10年前まで、こうした普及活動は全く行われていなかった。それを考えれば今は「やったらやっただけのことがある」段階だと言えよう。
しかしながら、今の普及活動は「体験」の域を出ていない。1時間ほど子供たちに「野球遊び」をさせる程度だ。
そのあと、子供たちが野球に興味をもって「野球遊び」を始めようとしても、用具も場所も仲間もいないのが現状だ。
プロ野球の普及活動は、年々数も増えている。中には、プロチームの野球教室が年中行事になっている幼稚園などもある。しかし、それでも子供たちが「野球遊び」を体験するのは年に1回程度だ。
讀賣ジャイアンツはジャイアンツアカデミーで幼児野球教室を行っているが、他にそうした常設の教室を設けている球団はない。この点が、サッカーとは決定的に違っている。


サッカーでは全国に幼児向けのサッカー指導を専門に行う「キッズリーダー」が約1000人いる。そして3歳から子供を受け入れるキッズスクールが全国にある。Jリーグのチームが下部組織として持っている場合もあるし、地域のスポーツクラブが運営している場合もある。また個人で運営しているものもある。
こうしたキッズスクールでは、週1~2回、定期的に「サッカー遊び」を経験し、段階的にサッカーへの理解を深めることができる。
指導するのは、JFAのライセンスである「キッズライセンス」を持つキッズリーダーだ。JFAの基本理念である「プレイヤーズファースト」や「グラスルーツ」などの考え方に基づき、子供たちを「サッカー好き」にするような指導が、全国一律のプログラムで行われている。

子供にその競技を「好きになってもらう」アプローチにおいて、野球とサッカーには決定的な差異がある。このことも認識すべきだ。(取材・写真:広尾晃)

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