退団を決意した理由
ロッテで2年間投手コーチを務めた清水直行氏はロッテを退団し、来季から沖縄初のプロ野球チーム『琉球ブルーオーシャンズ』の監督に就任することが決まった。
「投手コーチを務め、再びユニフォームを着させてもらい、1軍のAクラス争いと2軍の優勝争いをしているチームで共に戦えたことに、監督、コーチをはじめ、選手、チームスタッフのみなさん、球団関係者の方かだには感謝の気持ちしかありません」。
その一方で、「Aクラスに入れなかったというのは、達成できなかったところでもある。その辺りは自分の指導力不足、選手が悩んでいるとき、新たな挑戦をしようとしているときに、もっと色々な声がけ、アドバイス、引き出しがあれば、もう少し良い方向に導けたんじゃないかなという後悔だったり、自分の力不足を感じた部分も大きかった」と、恩返しができなかった部分もあったと振り返る。
その中で、なぜ退団という決意をしたのか――。
「自分が置かれている二軍投手コーチというポジションで、戦うという現場から離れている位置でやりがいはありました。ただ、勝ち負けというところから、離れていってしまっている自分が不安になって、マリーンズのユニフォームを着て野球を見ている自分がいた。そこにすごく不安になってきたのがひとつ」
清水氏は、10月4日に退団を申し入れロッテのユニフォームに別れを告げた。
選手から慕われた直さん
選手からは“直さん”と呼ばれ、親しまれていた清水氏。今季は二軍の投手コーチを担当し、若手投手たちが清水氏に相談しにいく場面を何度も見てきた。選手たちから慕われるだけでなく、そのアドバイスをするタイミングも的確だった。
「選手が前を向いているのか下を向いているのかというのを空気で感じ取らなきゃいけない。その選手がいいピッチングしたときに話しかけられると嬉しいし、ダメなピッチングをしたときは下を向いて落ち込んでいる。いくら前向きなことをいっても、前を向けなかったりする。たとえば、落ち込んでいたら『一緒になんでやろうな』と考えたり、よかったら『今は何が良かったのか』、『ここがよかったよな』とか同じ方向に寄りそうことを心がけていた」。
チェン・グァンユウ、東妻勇輔、小島和哉、中村稔弥、原嵩など、清水氏のアドバイスをきっかけに成長を遂げた投手が多かった。
「光るものがあるからこの世界にいると思っている。それを磨くのは、僕ら指導者の仕事でもあるし、もっと大きなところでいうと自分で自分を磨くことが一番大きい。それが自信になると思う。自信は何かというと、いい結果の積み重ねとか、成功体験の積み重ねとか、たくさんの要素が重なってうまれる。だから、成功することをたくさんさせてあげたい」
「本当に大事なのは選手とのコミュニケーションだと思っていて、必ず選手からも、ふっとしたことでも話してもらえるような空気を僕は発する。ふとしたときにちょっと隙を見せてあげるというか、たわいもない話もあえてしたりする。ふっと出てくる言葉っていつも思っていることやと思うから、練習中にランニングで立ち止まったときに悩みだったりを聞こえるようにはしたいなと思っていましたね」
清水氏はロッテの投手コーチ時代、自身の経験や考えを押し付けるのではなく、選手たちに寄りそう。多くの選択肢を与え、その中から選手自身に取捨選択させるように指導していた。
「型にはめるつもりはなくて、投げ方はいろいろあって、その人にあう投げ方がある。野球に限らず、色々スポーツって変化していく。バッティングだって変化するし、ピッチングだって時代によって変化していっている」
「指導する投手の体つき、体重、肩、肘の可動域というものが、自分の言っていることに当てはまらないかもしれない。違うところからみたらこっちの方が良かったりするのかなと思う。どちらかというと、やり方、セレクトしてあげられるものを出せるか。そのなかで選手は『これならできる』、『このやり方はいいかも』と思ったらそれが正しい」
「いいボールを投げることが練習なんだけど、勝負の世界になったとき、一軍の試合に投げて何が正解かといったら抑えることが正解。いくら自分が思っているいいフォームで投げられたって、打たれたら、結果的にこの世界では評価されない。そこの部分ははっきりさせてあげたいと思っている。結果、抑えられたボールが良いボールだし、いいフォームであることもあると。それが根っこにあるから、いろんな方法、手段、考え方で取り組ませていって、自分で選択させていましたね」。
特に今季は二軍の投手コーチに担当したことで、若手投手と過ごすことが多かった。若手投手が一軍へ成長していく姿を指導者として、見守りたい思いはなかったのだろうか…。
「選手は個人的に好き。それぞれのファンでもあるし、今後も見守れる。もちろん、指導者としての思いはたくさんあるよ。(原)嵩が手術あけでやっと投げられるようになって、130キロくらいしかスピードが出なかった。ブルペンでシャドーに入って、ネットスローを繰り返しやっていく姿を見てきたから、147キロくらい投げられたときはすごく嬉しかった」
「でもその過程のなかで、『誰がいなくなっても自分一人でできるようになりなさい』。何が足りないかというのを自分で探して、自分で必要なものを覚えなさいと伝えた。少しでも僕がいた2年間、今年ファーム1年間だったけど、言ったことを忘れないでいてくれたら、成長はしてくれるなと思っていますね」。
だからこそ、清水氏が若手投手陣に伝えたいことがある。
「プロ野球の世界って本当に厳しくて、好きで続けられる仕事ではなくて、順番が回ってくるわけではない。自分でチャンスをつかんで、チャンスがふっと訪れたときに、それを掴む自分がいないといけない。だからゆっくりしている時間はないんだよと。自分を磨いて自分の野球選手としての価値を高めていくのが練習、心構えだと思う。それを怠る子にはチャンスはこない。それを常にやっている選手には必ずチャンスが訪れると思う。そのときにチャンスをつかめる準備をしていてほしいと思うかな」
「普段から誰かがいなきゃできない、今はいいだろうじゃなくて、常にコツコツやっておく。未来を作っていくのは自分しかいない。アドバイスはたくさんもらいながら、自分で取捨選択できるような考え方は必要だと思うかな。『自分にあうものを探せ』、『自分に合わないものを避けろ』。もしかしたらそれが、ゆくゆく合うかもしれないということがあるから、それを選択できるような選手でいてほしいなと思います」。
新しい夢
これまでもロッテで投手コーチを務める前に、ニュージーランドで野球振興に取り組んできた。そして、次に清水氏が選んだ働き場所は沖縄だ。沖縄初となるプロ野球チーム『琉球ブルーオーシャンズ』の初代監督を就任することになった。
「自分が見えている世界はピッチングコーチとしてであって、またポジションが変わって見え方が変わってくるだろうなと思っている。全体を見るということも、これから自分の勉強、成長でもある。前を向いてやれるというのは、いいタイミングなのかなと思っている」
「選手としてもセ・リーグとパ・リーグでプレーさせてもらって、海外でも指導者としていろんなところと試合をさせてもらいながら、沖縄球団というすごく魅力のあるところからオファーがあった。自分でも成長できるし、チャレンジできるなというところがあったので、そこが一番かなと思うけどね。指導者としても自分という人間にしても、またチャレンジしたい」
沖縄で1からチームを作り上げるが、これまでも野球文化のないニュージーランドで野球振興に励んだことがあった。
「0から1というのはとても労力が必要。でも、ないものを作っているところは、すごく魅力だし、自分らしいなというところもある。ニュージーランドの場合は、野球文化があまりないところから作っていたからね。それはそれで大変なことはあったけど、ブルーオーシャンズに関しては、やろうとしているところに僕は共感したところもあるし、(イチから作りあげる)そのしんどさをわかっているから。だからこそ、楽しみかな。面白い、楽しい、ワクワクすることはすごく大事で、そこに情熱がないとできないと思うし、そういうところにファンは惹かれるんじゃないかなと思っている。たくさん愛されるような、苦労しながらも、ずっと前を向いていけるチーム作りをしていきたいと思う」。
琉球ブルーオーシャンズの監督に就任し、今後清水氏はどんな未来、ビジョンを思い描いているのだろうか。
「沖縄球団は、NPBがエクスパンションの議論になった時に12球団から14球団、16球団に入っていけるようなものは、球団としてのビジョンを持っている。自分自身としても、その過程の中でプロ意識をもった選手たちと関わり、その選手たちの成長、球団の成長を自分の中でイメージとして持っている。少しずつ叶ってくれば形になっていくかなと思っている。常に前を向いてチャレンジしていきたいと思っています」。
ロッテのユニフォームを脱ぎ寂しくはなるが、清水氏は日本のプロ野球だけでなく、野球界全体を盛り上げ、発展させていきたいという思いが強い。野球界が今以上にもっともっと良くなっていくために、清水氏は“挑戦”を続けていく。
マリーンズファン、選手、沖縄の野球ファンへメッセージ
▼マリーンズファンへ
「いつも温かくて、愛情を持って応援をしていただきありがとうございます。TVの前やマリンスタジアム、ロッテ浦和球場や他球場などへ応援に来てくださり感謝の気持ちでいっぱいです。今後もマリーンズOBのひとりとしてご声援をいただければ嬉しいです。本当にありがとうございました」
▼マリーンズの選手へ
「チームからもファンからも球団からも愛される、自律ができる選手になってください。そんな選手が増えれば必ず強くなると思っている。マリーンズ球団は、そんな選手をたくさん輩出できる球団だとも思っています。今後も全ての選手の活躍を楽しみにしています」
▼沖縄の野球ファンへ
「沖縄初のプロ野球チームなので、大いに興味を持っていただきたい。イチから作り上げるところに、球団と選手だけではなく、沖縄県全体で野球界を盛り上げるという熱い情熱を頂きチームは成長できると思います。ファンと一体になって、一人でも多くの方に携わってもらいながら一緒に野球界を盛り上げていければと思います。温かい声援とご協力をお願いいたします」
マリーンズファン、選手、沖縄の野球ファンへメッセージ文=清水直行
取材・文=岩下雄太