プロ初完封勝利
「ストレートで三振を取りたい」、「ストレートでガンガン押していけるピッチャーになりたい」という思いを強く持つロッテの種市篤暉が、最後に投げた球はワクワクするようなストレートだった。この日最速となる149キロの高めのストレートで、西武のスパンジェンバーグを空振り三振に仕留め、プロ初完封勝利を達成した。
今年1月の取材でプロ初完封に向けて「課題は球数、いろいろ考えています」と話していた種市はこの日、初回をわずか6球で終えると、2回こそ22球を投じたが、3回が9球、4回が10球、5回が13球と5回が終了した時点で60球の省エネピッチング。それでも5回まで奪った三振の数は、イニング数を上回る6個。
昨季もそうだが、早いカウントで追い込んでから無駄なボールを投げずに勝負することが多い。昨年9月2日の取材で、「そうですね。個人的には0ボール2ストライクでも3球三振を狙っています。そうでないと球数が増えていくので、できるだけ3球で勝負を決めたいと思います」と明かしている。この日は2回の山川穂高、5回のスパンジェンバーグに対しては、1ボールから3球続けてストライクを奪い三振に仕留めるなど、ボール球はあったが早めの勝負だった。
6回以降も1イニング15球ずつと、8回を投げ終えた時点で105球。打線も7回に安田尚憲の適時打で先制すると、8回には鳥谷敬の適時打などで4点を挙げ、5点を援護した。
球数も少なく、5点のリードがあれば、当然9回のマウンドにもあがった。プロ初完封への意識からか、ややボールが高めに浮き力んでいたようにも見えたが、最後はスパンジェンバーグをこの日10個目となる渾身のワクワクするようなストレートで三振に斬って取った。
ベンチでチームの勝利を見届けるのではなく、プロ入り後初めて、1人で最後まで投げ抜き、マウンド上でチームメイトと勝利の喜びをわかちあった。投げては種市が完封、打っては4番・安田が適時打と若き2人が活躍しての勝利に、マリーンズファンも大いに喜ぶ試合内容だったのではないだろうか。
話を種市に戻そう。この日はインコースとアウトコースにストレートがきっちり決まり、カウントを取るフォーク、5回のスパンジェンバーグ、8回に栗山巧から三振を奪ったストライクゾーンからボールゾーンへ落ちるフォーク、1ボールや2ボール1ストライクといったカウントで投げていた叩きつけのスライダー、ストライクゾーンからボールへと逃げていくスライダーなど、インコース、アウトコースをうまく使った配球でライオンズ打線の的を絞らせなかった。特に序盤はインコース中心で攻め、中盤以降はアウトコースをうまく織り交ぜながら投げているように見えた。そのなかでも4番・山川に対しては、4回に二塁打を打たれたが、インコースとアウトコースをうまく使い封じていたのが印象的だった。
ゲームを作る男
負ければ開幕戦以来の借金生活となる絶対に負けられない一戦で、チームに白星を運ぶだけでなく、リリーフ陣を休ませ一人で投げ抜いたことに大きな価値がある。
振り返れば昨年も楽天とクライマックスシリーズ進出を争っていた9月、3連敗でCS進出に向けて負けが許されない状況となった9月22日の日本ハム戦で、「負けたら終わりだと思っていました。やることは変わらないと思って、自分のできることに集中して投げられたと思います」と、完封こそならなかったが、8回を5安打無失点に抑え、チームを勝利に導いたこともあった。
今季も種市が、チームの嫌な雰囲気を断ち切っている。2連敗で迎えた7月10日の西武戦、6回を3失点に抑え勝利投手となった。翌11日の西武戦は5-8で敗れており、仮に種市の登板で落としていれば4連敗になっていた可能性もあった。チームが大型連敗していないのも、種市、そして6年目の岩下大輝といった先発が、チームに勝利を結びつけるような投球を披露していることも関係しているだろう。
その種市は今季6試合に先発して、ここまで6試合全てでクオリティ・スタートをクリアし、昨年8月4日の楽天戦から公式戦では14試合連続で6イニング以上投げる。絶対に負けられない試合で勝つ、登板した試合は安定して長いイニングを投げるーー。
2年前にロッテ浦和球場で「見ているだけで勉強になります。最後までずっと見ていました」と一軍の先発ローテーション投手のブルペンでの投球練習を見て、熱心に勉強していた男も、今や“エース”に近い存在となった。それでも変わらないのは、日々成長したいという向上心、技術向上への探究心。この4年で階段を駆け上がるように成長しているが、その裏でプロ1年目から怠らずコツコツとトレーニングを続け、積み上げてきたものがある。今もまさに成長中の右腕。将来、どんな投手になるのか本当に楽しみだ。
文=岩下雄太