ソフトバンク・工藤監督

◆ 第3回:王者進撃の予兆

 野球とは、点取りゲームだが、一方で点をやらなければ負けることはない。

 後半戦スタート。ソフトバンクが鉄壁の守りで進撃を見せている。

 13日からの対日本ハム3連戦。初戦を石川柊太の好投と柳田悠岐の一発などで3-0の快勝を飾ると、2戦目は東浜巨が8回11奪三振の圧巻投球で連勝。さらに3戦目は今季一軍初先発のカーター・スチュワート・ジュニアの無安打ピッチングを5人の後続投手も継続して何と球団初となるリレーによるノーヒットノーランを達成する。

 試合結果は0-0で勝ち星こそつかなかったが負けない鷹の勢いは衰えない。続く18日の楽天戦ではエース・千賀滉大の復活力投に中継ぎ、抑えが応えて3-0でまたもや完封勝利だ。

 4試合連続無失点に五輪ブレーク前の7月14日楽天戦の4回から数えると42イニング無失点は、いずれも球団新記録の快挙となる(19日現在以下同じ)。

 後半戦の4試合で許した被安打は1本、3本、0本、3本。これでは負ける要素は見当たらない。しかも、特筆すべきは石川の勝利が5月28日以来なら、東浜の3勝目も6月以来。スチュワートは長い二軍暮らしから満を持しての先発で、千賀は左足首靱帯損傷の大ケガからの復活。つまり、前半戦は故障による出遅れや、チーム事情で出番のなかった投手が戻ってきたことを意味する。

 今季は東京五輪による約1カ月のブレーク期間があった。各チームともに戦力の立て直しや再整備に力を注いだが、最も効果的な時間となったのがソフトバンクだったと言っていいだろう。

◆ 忍び寄る足音

 前半戦終了時点でオリックス、楽天、ロッテの後塵を拝して4位。それが現在は3位に浮上して2位の楽天までは1ゲーム差と肉薄する。3.5差のオリックスはまだ遠いが、工藤公康監督に慌てるそぶりはない。それは過去の経験則からくる自信と言っていい。

 この数年、ソフトバンクは故障者の続出に泣かされてきた。他球団よりチーム内競争が激しいため、常に全力でアピールし続けなければ落伍することも要因のひとつかも知れない。

 今季も前述の千賀や東浜が出遅れ、打線ではジュリスベル・グラシアル、アルフレド・デスパイネらが戦列を離れて迫力不足に陥っている。自慢の投手陣では守護神・森唯斗が左肘痛、代役でクローザーを務めたイバン・モイネロも左手首の違和感で後半戦を前にファーム落ち。和田毅が左肩違和感で再調整なら、新外国人のコリン・レイは家庭の事情で退団の道を選んだ。

 普通なら空中分解の危機をはらんでいるが、指揮官の見方は違う。まだ、この時期は慌てずに、故障者は時間をかけて戦列復帰を待つ。勝負所を9~10月と定めてピークに持っていくのが“工藤流”である。

 日本シリーズ4連覇で王国を築いたが、18、19年のペナントレースでは西武に優勝を許し、クライマックスシリーズで勝ち上がっていった。昨年は10月の12連勝で一気に勝負を決めている。そんな実績があるからこの時期に浮足立つことはない。「短期決戦の鬼」は、その時に備えて着々と布石を打ち始めたのだ。

 小久保裕紀ヘッドコーチが誕生した今季は、首脳陣の指揮系統に変化が生まれた。大まかに言えば投手部門は工藤監督が統率し、野手部門は小久保ヘッドに権限を委譲して合議制を敷いている。その攻撃陣は、まだまだ破壊力不足で大量得点は望めないが、その分だけ、投手起用に失敗は許されない。

 昨年、コロナによる開幕延期を受けて、工藤監督は一軍野手全員と「電話面談」を行い、意思疎通を図ったという。自宅に大量のビデオを持ち込み自軍の課題を洗い出し、相手チームの分析も行っている。野球の虫だからこそ、名将は常勝軍団を手に入れた。

 首位を行くオリックスには山本由伸、宮城大弥の二枚エースがいる。だが、チーム防御率を見れば、今でもソフトバンクが上だ。日に日に、凄みを増す鷹軍団の足音が忍び寄る。96年以来、優勝から遠ざかっているオリックスにとって、これ以上のプレッシャーもないはずだ。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)


【荒川和夫・プロフィール】
1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中。

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この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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