ロッテ・吉井監督 (C) Kyodo News

 昨年は共に5位に沈み、新監督で新たな船出となった「伏兵」が、予想以上の健闘でペナントレースをかき回している。ロッテと広島だ。

 ロッテは首位・オリックスと1.5ゲーム差の2位(12日現在、以下同じ)、広島も阪神と4差、2位のDeNAとは1ゲーム差でしのぎを削っている。ライバルたちを見ればパ・リーグのオリックスやソフトバンク、セ・リーグの阪神やDeNAらは戦前から下馬評の高かったチームだが、ロッテと広島は今季も苦戦が予想されていた。それが、優勝を狙える位置にいるのだから大健闘と言えるだろう。

 新監督を迎えたシーズンはチームにとって大きな転換期にあたる。前任者のいい部分は踏襲しながらも、新たな刺激や独特の戦い方が加わるからだ。

◆ WBCとの兼任を経て指揮官としての初シーズンへ

 投手コーチとして、評価の高かったロッテ・吉井理人監督は突如、誕生した。

 昨年の最終戦を前に前任者である井口資仁監督が急に、辞任を表明。すでに続投を視野に入れていた球団側は大慌てで後継者探しに着手。そこで白羽の矢が立てられたのが、球団のピッチング・コーディネーターを務めていた吉井だった。

 球団が掲げる「2025年までに常勝軍団を作り上げる」と言うビジョンを引き継ぎ、なおかつ、若きエース・佐々木朗希の育成に深く関わってきた点が決め手になったと言われる。

 しかし、吉井ロッテの前には大きな難問が待ち構えていた。監督就任前に侍ジャパンの投手コーチ就任が決まっていたからだ。

 キャンプも早々に引き上げ、WBC日本代表の指導にあたり、開幕直前までチームを留守にする。誰もが無謀と思われた「二刀流」。だが、新指揮官はロッテの首脳陣とオンラインミーティングで意思疎通をはかり、自軍のオープン戦のビデオをチェックしながらこの難問をクリアしていった。

 現役時代は近鉄を皮切りに、メジャーリーグのメッツなどを渡り歩き、コーチとしても日本ハム、ソフトバンク、ロッテで後進を育成。投手目線に立った指導は「名伯楽」と呼ばれる反面、監督と起用法を巡って衝突するなど、浮き沈みの激しい生活を送ってきた。

 そんな吉井の大きなターニングポイントは2014年から筑波大大学院で「野球コーチング論」を学んだ事だったかも知れない。

 いかにして、選手を伸ばし、指導者としてどう接していくのか? 経験則だけに頼らず系統だって学んだことが現在の“やりくり上手”につながっている。

 佐々木朗希と言う絶対的な大黒柱はいるが、それ以外の選手は球界を代表するような存在ではない。毎試合のように先発メンバーを入れ替える「猫の目打線」は苦肉の策だが、かつて師事したボビー・バレンタイン監督譲りである。

 6月30日に3連敗を喫した直後には若手選手を集めて緊急ミーティングで“喝”を入れる。その直後から安田尚憲、山口航輝ら若きレギュラー候補が打棒爆発。投手陣に目を転じれば守護神の益田直也の酷使を避けて、沢村拓一を抑えに回したり、今月9日の日本ハム戦では1点リードの緊迫場面でプロ4年目の横山陸人を起用して初セーブにつなげる。大胆かつ柔軟な采配がここまでの好成績につながっている。

◆ 「新井イズム」が徐々に浸透

 吉井監督がコーチとして実績を残しているのに対して、広島の新井貴浩監督はコーチすら経験なしに指揮官を任された。

 現役時代は猛練習で大打者の座を掴んだが、明るい性格は若手たちの良き兄貴分として慕われた。昨オフ、FA流失も危惧された西川龍馬は「新井さんが戻って来るなら」と残留を決めたほど人望は厚い。

 ロッテ同様、大物スターは少ないが新指揮官は「全員野球」に活路を見出している。シーズン序盤では絶対的守護神の栗林良吏が不振のため登録を抹消、大きな危機を迎えるが、この新監督は愚痴をこぼさずに前を向く。栗林がダメなら全員でカバーするという「新井イズム」が徐々に浸透していった。

 こうした中から矢崎拓也が新クローザーに成長する。先発陣では昨季8勝の床田寛樹がすでに7勝、同6勝止まりだった九里亜蓮もすでに6勝をマークしている。打線では西川の四番起用や昨年までは出場機会の少なかった田中広輔の復活や、代打の切り札で松山竜平が輝きを取り戻すなど日替わりヒーローの出現がチームの好ムードを体現している。

 この両チームのチーム打率、防御率、得失点などの数字を洗い出すと、ライバル球団より上回っているものはほとんどない。(ロッテの失点だけはリーグ最少)各部門で3位から4位、ロッテのチーム本塁打50本はリーグワーストだ。

 それでいて、優勝争いに加わっているのだから吉井、新井両新人監督の戦いぶりは侮れない。数字以外のプラスアルファがある。

 チーム一丸の全員野球。誰もが求めるポイントだが、それを実践できた軍団だけが頂点にたどり着ける。

 ルーキー監督の今後の手腕になおさら注目だ。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

【荒川和夫・プロフィール】
1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中。

この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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