広島・常廣羽也斗(C)Kyodo News

◆ 白球つれづれ2025・第7回

 侍ジャパンの井端弘和監督は「新しいもの好き」である。進取の精神の持ち主と言い換えてもいい。

 3月5、6日にオランダ代表を迎えて行われる「ジャパンシリーズ2025」のメンバー発表が今月14日に行われた。

 1年後に迫るWBC世界一決定戦に向けての強化試合の位置づけだが、28選手中20選手が初選出。宮城大弥(オリックス)、今井達也(西武)らのエース級もいるが、多くは「伸びしろ」を見込んだフレッシュな顔ぶれで、平均年齢は25.8歳。昨年3月に行われた欧州代表との強化試合では、当時大学生だった宗山塁(明大)や金丸夢斗(関大)ら4選手を飛び級で招集している。彼らはその後のドラフトでいずれも1位指名でプロ入り。井端ジャパンの幅広いスカウティングの確かさが証明されたものだ。

 今回の“若侍たち”にあって、最も驚かせたのは広島の2年目、常廣羽也斗投手の選出だろう。

 何せ、昨季の一軍登板は、わずかに2試合で1勝を挙げただけ。まだ「侍」と呼ぶには似つかわしくないが、その潜在能力の高さを見込んで抜擢するあたりが井端ジャパンらしい。

 このキャンプ、評論家各氏が絶賛するのが常廣と言う男だ。

 松坂大輔氏はスポーツニッポン紙上でこう評論する。

「ゆったり力感のないフォームから力強いボールを投げる。手元で球速以上の速さを感じるストレートとブレーキの効いたカーブもいい。楽天の岸投手に似たイメージ」と分析。チームメイトである小園海斗選手もその投球を「エグいっすよ」と語る。

 23年のドラフト1位。青学時代はエースとして33年ぶりのリーグ優勝に貢献。4年時の大学選手権でも18年ぶりの日本一に輝き、最優秀投手と最高殊勲選手賞を獲得するなど、世代ナンバーワンの実力の持ち主だった。

 期待されたプロ1年目はコンディショニング不良で、キャンプは三軍スタート。故障も癒えて一軍に呼ばれたのは9月になってから。それでもDeNA戦に初登板すると、初先発で初勝利。非凡な才能はのぞかせた。

 今春のキャンプ。最速155キロのストレートに三振の取れるフォークに加えて、昨年から取り組んでいるカットボールに磨きをかけている。

 その成果は2月6日のシート打撃に登板すると、打者5人に対して3奪三振。侍ジャパンに選出された翌日の15日にはヤクルトとの練習試合に先発して2回を1安打無失点と結果を出している。

 「期待しているとかじゃなく、やってもらわなくては困る投手」と新井貴浩監督や球団アドバイザーの黒田博樹氏が口を揃える。

 チームは昨年9月上旬まで首位を快走しながら、思わぬ大失速。セリーグワーストタイ記録となる月間20敗を喫して4位に沈んだ。加えてオフには先発ローテーションの一角を担ってきた九里亜蓮投手がFAでオリックスに移籍。大瀬良大地、床田寛樹、森下暢仁の先発三本柱は健在でも、次のエース候補が欲しい。その期待を一身に背負っているのが常廣である。

 広島の再浮上には、打線の底上げも急務だ。チーム打率(.238)、同本塁打(52)はいずれもリーグワースト。四番不在のピストル打線を返上するため、今季から加入する新外国人、エレフリス・モンテロ内野手とサンドロ・ファビアン外野手の活躍が絶対条件となる。キャンプの段階では両外国人共に実戦的な打撃を見せている。どちらかが四番に座り20ホーマー異常を記録すればカープの逆襲も夢ではない。

 巨人の大型補強に、阪神の投打のバランス。そして下剋上を成し遂げて日本一に駆け上がったDeNAの強力打線。現時点でセリーグの下馬評は「三強三弱」と見られている。それだけに広島では常廣の大車輪の働きと打線の奮起がカギとなる。

 チームで先発陣の一角。そして侍ジャパンでも秘密兵器の期待を担う常廣は“シンデレラボーイ”の存在だ。

 本番のWBCでは大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希の「ドジャース三人衆」らメジャーの強者が揃うことも予想される。今回選出されたヤングジャパンの中で何人がその中で生き残れるか?

 わずか1勝男の成り上がりに注目してみたい。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

【荒川和夫・プロフィール】
1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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荒川和夫

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