長嶋茂雄さんと松井秀喜さん (C)Kyodo News

◆ 白球つれづれ2025・第23回

 プロはプロを知る。

 6月3日、長嶋茂雄さんが89歳の生涯を閉じた。翌4日のスポーツ紙には同じ写真と、同じ見出しが並んだ。

 よろけるほど体勢を崩しながら三振して、ヘルメットが吹っ飛んでいる写真と「長嶋は永久に不滅です」の文字が躍っている。

 ホームランや優勝胴上げの瞬間ではない。ミスターの野球人生を切り取った1枚の写真には、三振でもファンを魅了し続けた稀代の野球人の姿が映し出されていた。

 私には、密かに誇る野球記者としての経歴がある。

 スポーツニッポン新聞社に入社して、運動部に配属。スタートのロッテ担当で金田正一監督に鍛えられ。1978年から巨人担当として長嶋茂雄監督に出会うと、当時は「江川番」として江川卓投手の一挙手一投足を追った。そして一度、巨人から離れるが84年から王貞治監督の下でまた番記者に戻った。

 つまり当時の野球界のスーパースター「ONK」3監督の担当記者を拝命したのはただ一人。これもまた「昭和の勲章」である。

 そして第一次長嶋監督時代には、伝説の伊東キャンプと80年の電撃解任劇に直面した。

 当日、広島とのシーズン最終戦を終えて空路帰京する長嶋監督を追って、羽田から田園調布の自宅までカーチェイス。報知新聞(現スポーツ報知)のベテラン番記者と自宅に消えてから、しばらくするとその去就が危ぶまれていることが発覚。結局この解任劇はスポニチの世紀のスクープとなるのだが、その後は親会社である読売新聞の不買運動まで発展する。後に長嶋さんは巨人軍終身名誉監督に就くが、読売サイドにとっても“長嶋ブランド”はグループの象徴的存在となっていった。

 現役時代の背番号3は「栄光の男」であり、その存在は「太陽」と称された。

 東京六大学の本塁打記録を打ち立てて、立大から入団すると新人離れした打撃と華麗な守備、走塁で瞬くうちにスターに上り詰める。初の天覧試合では阪神・村山実投手からサヨナラ本塁打を放ち、日本中がプロ野球に沸き返った。

「巨人、大鵬、卵焼き」に石原裕次郎、美空ひばりと力道山。昭和の中心には常に長嶋と王がいた。

 そんな長嶋さんを世間では天才と呼んだが、本人はそれを否定している。

「プロとはファンを喜ばせるもの。努力は人に見せるものではない」と黙々と練習に打ち込んだ。

 天真爛漫な人柄に、誰にも真似のできないオーラをまとい、ちょっと“天然”なエピソードにも事欠かないミスターだが、監督になってからは、決して順風満帆な白球人生ではなかった。

 第一次監督時には、初年度から最下位に沈み、その後持ち直したが予期せぬ解任。それから11年に及ぶ「文化人生活」を送って巨人の監督に復帰した。

 一時は横浜大洋(現DeNA)の熱烈プロポーズに球界復帰に心を動かしたと言われる。しかし、それを止めたのは亜希子夫人だった。長嶋には巨人しか進む道はなかった。

 そんなミスタープロ野球に大きな転機が訪れたのは2004年2月に脳梗塞で倒れたことだった。アテネ五輪の日本代表監督として指揮を執るはずが無念のリタイア。ここから壮絶なリハビリ生活が始まる。

「人に努力する姿は見せない」とプロフェッショナルな姿勢を貫いてきた長嶋さんは、初めて違う行動に出る。

「全国には約200万人の同じ病の人がいる。少しでも役に立ってくれれば」(NHKのインタビューより)と積極的にリハビリ生活を発信する。

 スーパースターとして、常に周囲から見られてきた「雲の上の人」が人間・長嶋茂雄として降り立った瞬間だったかも知れない。

 8日に行われた告別式で、喪主を務めた次女の三奈さんは「食事も食べられず、会話もできない日も何日もありました」と闘病生活の過酷さを明らかにするとともに「父は病と真正面から向き合い、決してあきらめることはしませんでした」と語っている。

 昭和100年の記念の年は、長嶋さんが育った東京六大学100周年にもあたる。亡くなった6月3日は三奈さんの誕生日で、「3」がついている。89歳と言う天命も「野球」を連想させる。

 5連敗と苦しんでいたチームは、長嶋さんの通夜、告別式に合わせるように白星を掴んだ。

 愛弟子の松井秀喜氏がニューヨークから駆け付け、3月に最後の東京ドームではドジャースの大谷翔平選手を激励した。

 野球人・長嶋茂雄のドラマチックな星回りは次の世代に確実に受け継がれていく。(一部敬称略)

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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