◆ 白球つれづれ2025・第25回
ソフトバンクが、セ・パ交流戦で6年ぶりの優勝を手にした。
「ない袖は振れない」苦しい台所を切り盛りして「ない袖を振って」結果を出す。小久保裕紀監督の手腕が光った勝利である。
優勝のかかった22日の阪神戦。この戦いこそ小久保ホークスの強さが凝縮されていた。
結果は3-1で接戦を制したものだが、勝利のキーマンを列記してみよう。
先発は3年目の若手・松本晴に託した。今季1勝2敗ながら、伸び盛りの本格右腕は、大事なマウンドを5回1失点(自責0)とベンチの期待に応える。
先制点をたたき出したのは長いファーム暮らしが続いたジーター・ダウンズ選手だ。4回、左前に2点タイムリーを放つ。さらに8回に貴重な追加点を叩き出したのが18年目のベテラン・中村晃選手。そして最後は杉山一樹投手が危なげなく締めくくって頂点を掴んだ。
松本晴は先発ローテの一角をまだ完全につかみきった男ではない。杉山は守護神、ロベルト・オスナの不調で大役を任されている。ダウンズは今宮健太選手の故障離脱で出番がやって来た。シーズン前には「代打の切り札」と指名されていた中村は打撃不振でファーム調整中の山川穂高選手に代わって4番を任されている。四人共に主力の故障や不振で代役を託され、結果を出している。まさに指揮官は「ない袖を振り」、選手はそれに応えたのだ。
春は絶望の淵に立たされた。近藤健介(腰痛)、栗原陵矢(右脇腹痛)昨年9勝を上げてエース格に期待されたスチュワート・ジュニア(左脇腹痛)など主力各選手に故障続出。開幕直後にも柳田悠岐(脛骨挫傷)、周東佑京(左腓骨骨折)、今宮健太(右前腕打撲)選手など“負の連鎖”は止まらない。
オフには正捕手の甲斐拓也選手と石川柊太投手がFA移籍。その穴も埋まらないまま4月中旬には最下位に転落。当時の指揮官は「ここにいるメンバーでやるしかない」と顔をしかめた。
他のチームなら、戦闘不能や空中分解を起こしてもおかしくない危機を乗り越えられたのも、このチームらしい「巨大戦力」の賜物だろう。
交流戦では投でリバン・モイネロ、打で柳町達のスーパーヒーローが誕生した。
モイネロは6月6日のヤクルト戦に先発すると8回で18奪三振の快投。13日のDeNA戦でも13奪三振で2戦31奪三振は90年の野茂英雄(近鉄)以来35年ぶりの快記録を打ち立てる。
開幕を二軍で迎えた柳町は交流戦に入ると打率.397の大爆発。シーズンを通したパリーグの打撃成績でもトップを快走するなど、完全に主力選手の座を勝ち取った。2人揃って交流戦のMVPを受賞してもおかしくない。
その柳町が言う。「競争の激しいホークスだからこそ、今の自分がある」。
一軍から四軍までを擁する巨大組織は、毎年25人から30人ほどが入団し、その分は既存戦力がトレードや退団で淘汰されていく。
現役ドラフトでは大竹耕太郎(現阪神)や水谷瞬(日本ハム)選手らが活躍。戦力外のレッテルを貼られた上林誠知選手は中日に移籍後、レギュラーの座を掴んでいる。彼らは古巣では二軍でくすぶっていた存在だ。結果を残さなければ、置いていかれる。すくそこに整理対象となる現実があるから、激しい生存競争は生まれる。「小久保マジック」の秘訣はそこにある。
今年の交流戦は“パ高セ低”の現実を突きつけた。上位6チームをパリーグが独占、通算でもパの62勝43敗2分けと圧倒している。
この結果、珍現象も生まれた。7連敗を含む8勝10敗と負け越した阪神は、セの他球団も負け続けたために、交流戦前からの首位を堅持。それどころか2位のDeNAとのゲーム差を3.5ゲームに広げている。逆にパは全球団が勝ち越したので、シーズンで首位を行く日本ハムと3位・ソフトバンクの差は依然として3ゲームと思ったほど縮まらない。
「日本ハムが負けないので、勝ち続けるしかない」と小久保監督は、後半戦の戦いを見据えている。
昨年は4年ぶりのリーグ優勝を果たしたものの、日本シリーズは”下剋上”のDeNAに逆転負けを喫した。その悔しさが今年の戦いの原点にある。
日本ハムの戦力充実ぶりは目を見張るものがある。オリックスも手強いし、西武も昨年とは別チームのような変身を遂げている。
現状を見れば、交流戦Ⅴより、リーグ優勝への道のりは厳しい。
今も近藤や、柳田、今宮らが戦列を離れ、打撃不振の山川は二軍で再調整に汗を流している。
苦しみの中での光を交流戦で見出した。夏から、勝負の秋の陣を見据えて新たな鷹軍団がどんな成長を見せていくのか?
およそ1週間後の7月1日から日本ハムとの直接対決3連戦が待ち受ける。
今季成績は4勝6敗と負け越しているが、交流戦覇者の勢いをぶつける。
指揮官に春先の苦渋の表情はもうない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)