◆ 2年目の飛躍
昨年来日し11ホールドと一定の仕事をこなしたローワン・ウィック。2年目の今年は一気に飛躍し、ここまで23試合に登板して失点した試合はわずか2、防御率も1.03と抜群の安定感を誇っている。またセットアッパーとしてホールドを積み重ねるとともに、ビハインドの場面での回跨ぎも厭わない鉄腕ぶりを発揮するなど、“使い勝手のいい”リリーバーとして、今やブルペンに欠かすことのできない存在となっている。
だが昨年は早々に二軍落ちを経験するなど、決して順風満帆なスタートではなかった。「そのときに日本の野球はどういうものなのか。あの時間でわかることができました。それが今につながっていますね」と苦心を重ねた結果が現在の成功のカギだったと回想。いまでは「日本野球にも慣れました。それが一番ですね。ピッチングコーチ、選手たち、スタッフ、またキャッチャーとも初めて組むわけではないので、毎日ここに来て何をするのかが分かっていますからね」とチームに馴染んだうえで、ルーティンワークもしっかりとこなせていることが、好調の秘訣と頷く。
また飯澤龍太通訳も「本当にトレーニングをよくやってます。真面目ですよ」と証言するほど自己鍛錬に時間を割く。ホームゲームでは試合後に若手を中心に居残り練習する姿は日常だが、彼らと同じくらいの時間にスタジアムを出ることも少なくない。無双投球を続けている理由のひとつは、弛まぬ努力が礎となっていることは明確だ。
◆ 勝利へのあくなき想い
交流戦最終戦となったロッテ戦では、3者三振、しかもいずれのバッターも3球で料理する『イマキュレートイニング』を達成。NPB史上22人目となる快挙となったが「試合が終わってから、ロッカーでアンソニー・ケイからメッセージをもらって『ああそうなのか』と気付きました」と笑う。
そんなウィックが、自身の記録よりもフォーカスしていた点は「それが勝利に結びつかなかったことは非常に残念です。チームとしてもう少し足りない部分があったという感じですね」と勝てなかったことに対して、唇を噛んだ。
優勝を目標に掲げて挑んだ交流戦は、7勝11敗の10位に沈んだ。パ・リーグには「やっぱりいいチームが多いなと感じました。その中で自分たちもいいときはあったんですけれども、うまく噛み合わないことがすごくあったと感じています」と分析。自身は6試合に登板し2ホールド、回跨ぎも3回とフル回転したが「福岡で良くない投球がありました」と今季唯一敗戦投手となったゲームを挙げ反省点を口にする部分に、勝利への並々ならぬこだわりを感じさせた。
週末から再開されるリーグ戦へ「チームとして何が必要なのかを考える必要がある」と苦労した交流戦を踏まえて問題を提起。続けて「このシリーズには『目を覚ませ』というようなメッセージがあったように感じます。このような状態に対して、しっかりと修正をしないといけないというメッセージです」と右腕は一段と言葉に力を込めた。
チームの浮沈を担う蒼き目の勝利至上主義者・ウィック。様変わりした若いリリーバーたちを、鍛え抜かれたたくましい背中で引っ張っていく。
取材・文 / 萩原孝弘