◆ 白球つれづれ2025・第34回
第107回全国高校野球選手権大会は23日、沖縄尚学の優勝で幕を閉じた。
決勝の日大三高(西東京)戦は、息詰まる熱戦となったが3-1で沖縄が頂点に駆け上がった。
初戦の金足農高(秋田)を1-0で勝ち上がった沖縄尚学はその後もハラハラドキドキのクロスゲームをものにしていった。2年生末吉良丞、新垣有絃のダブルエースを中心とした堅い守りの全員野球。大会前の下馬評はそこまで高くはなかったが、甲子園と言う夢舞台で経験を積むたびに力をつけていった。
アルプスには指笛が響く郷土色豊かな応援と、比嘉公也監督の作り上げた高校生らしいまとまりのある野球が花開いた。
今大会を振り返ると「時代の交差点」を思い浮かべるほど、様々な変革と問題が起こった。
酷暑の中の開催。高野連は熱中症のリスクを減らすため、朝夕二部制に舵を切った。筆者自身も大会第5、6日に甲子園を訪れ午後4時以降の試合を観戦したが、銀傘の下で日差しを遮られていたこともあるが、浜風が吹くと暑さを忘れるほどだった。この結果、選手の熱中症は前年の58件から24件とほぼ半減している。
一方で8日に行われた綾羽(滋賀)対高知中央戦の試合終了は午後10時46分となった。大会ルールでは午後10時を過ぎたら、新しいイニングに入らず、決着のつかない時は翌日継続試合とする、となっていたが事前に両校と打ち合わせた結果、延長タイブレークの10回までは継続と決めていた。
その通り試合は延長10回に綾羽が競り勝ったが、仮に大会前の取り決め通りだったら、9回同点の夜10時に、応援する側は突如打ち切られたことになる。果たしてこれで納得出来ただろうか? 地元に帰るに帰れない。宿もない形で放り出されることになる。これでは新たな対応に迫られるのも当然だろう。
延長タイブレークが8試合を数えたのは史上最多。例年以上に接戦が多く盛り上がった大会だが、残念なことに汚点も記した。広島の強豪・広陵高が大会期間中に突如、出場辞退となった事件だ。
今春、同校の野球部寮で部員間の暴力事案が起こる。報告を受けた日本高野連では3月に厳重注意と当該部員に出場停止などの処分を発表したが、甲子園出場を決めた大会直前になって、被害者生徒の保護者とされるSNSが拡散。暴力の程度や学校の対応が不十分で転校を余儀なくされたというショッキングな内容だった。
この騒ぎは収まるどころか、同校野球部内で行われていた過去の暴力事案などが新たに発覚するなど、騒動の拡散を受けて大会期間中の8日に出場辞退を発表、さらに21日には中井哲之監督らの退任も決まった。
春2回の優勝と夏は2度の準優勝を誇る名門を育て上げて来た名将が監督に就任したのは35年前。全国でも屈指の指導者ともなれば、学校内の影響力も絶大なものになる。昔気質の厳しい指導が許された時代。ビンタや「けつバット」と呼ばれる体罰も日常茶飯事だった。
中井前監督に限らず、100人以上の部員を束ねて、同じ方向を向かせようとすれば、大なり小なり、この手の指導と称した問題行動は起こり得る。
加えて、指導者の目の届きにくい寮生活などでは、部員同士のいざこざも起こりやすい。要は暴力根絶は当たり前。そのうえで指導者の理念や野球の取り組む姿勢などミーティングを通じてどれだけ全員に浸透させて、風通しのいい組織を作れるかが問われている。
甲子園の球児たちが、なぜここまでの感動をもたらしているのか?
そこには、日頃の猛練習で培った技やチームワークが1試合で散ってしまう「はかなさ」があるからだろう。そこに「甲子園主義」と言っていい勝利至上だけが蔓延すると、指導者の暴走も生む。
近年の甲子園では「グッドルーザー」の文化が根付きだしている。
仙台育英の須江航監督は、今大会の3回戦、沖縄尚学に延長タイブレークの末に敗れて、甲子園を去る時に沖縄尚学ナインを拍手で称えて、「次は優勝だぞ」の言葉を添えた。決勝戦で敗れた日大三高も、ベンチ前に整列して優勝校のインタビューを聞き、スタンドの全方向に感謝の挨拶を行っている。
古き悪習は正し、新たな問題点を洗い出し、新時代の息吹を作り出す。
108回目の甲子園がどう変わっていくのか? 見守っていきたい。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)