コラム 2018.06.11. 19:25

大谷翔平の戦線離脱と日米問題

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ロイヤルズ戦に先発登板するも4回1失点で降板した大谷翔平

白球つれづれ2018~第15回・日本人メジャーリーガの受難


 日本人メジャーリーガーの受難が続いている。先月23日(現地時間、以下同じ)にダルビッシュ有が右上腕三頭筋の腱炎で故障者リスト(DL)入りすると、同30日には前田健太が右股関節の張り、今月に入っても8日に大谷翔平が右肘内側側副靱帯の損傷、翌9日には田中将大が走塁中に足を痛め両大腿裏の張りでいずれもDL入りと異常事態が続いている。

 これだけではない。今季、西武からパドレスに移った牧田和久は不調がたたって目下はマイナー暮らし。長くメジャーで中継ぎとして活躍してきた田沢純一も5月にマーリンズから戦力外通告を受けて、その後にタイガースとマイナー契約を交わしたばかり。

 あのイチローもマリナーズのオーナー付き特別補佐という肩書で実質上の引退状態に追い込まれている。希望の星はダイヤモンドバックスのセットアッパーとしてフル回転している平野佳寿ただ一人というのが現状だ。


大谷離脱の2つの要因


 その中でも全米に衝撃を与えたのが大谷の戦列離脱だろう。DL前の成績が投手として4勝1敗、防御率3.10。打者では打率.289、6本塁打に20打点。あのベーブルース以来100年ぶりの本格的二刀流選手の出現は、目の肥えたメジャーファンも虜にした。

 大谷が変調を来したのは6日のロイヤルズ戦のことだ。先発として5勝目を狙うも右中指にマメを作り途中降板、その後に右肘の張りを訴えた。球団からの発表によれば傷の程度は3段階あるうちの「グレード2」で部分的な損傷や断裂の可能性がある状態。およそ3週間の安静後に手術の可否を含めた判断が下される。では、なぜ才能あふれる23歳は今回のアクシデントに見舞われたのか?

 野球評論家の石井一久はスポーツニッポン紙上で2つの要因に言及する。1つ目は本来の体の出力以上にパワーを上げ過ぎたオーバーヒート現象、そして2つ目は日米のボールの違いからくる負担増だ。

 日本人メジャーリーガーの多くが悩まされ、故障に泣かされるのが「日米格差」の問題だ。特に投手の場合、少年時代からの投げ過ぎによる肩の消耗とボールの違いが必ず指摘される。加えてマウンドの土が固いメジャーの場合、下半身の粘りが不足して、勢い上半身主導の投げ方になりやすい。それが肩や肘の負担につながり故障の因となる。

 しかし大谷の場合、肩の消耗度はダルビッシュや田中よりも若く、エンゼルス入団時のメディカルチェックでも「フレッシュな状態」と診断されている。一方でアリゾナキャンプ時には、ボールの違いからくる感覚の違いにより制球に苦しむ時期もあった。


オトナの事情!?


 一般的に日本の使用球に対して米国製は一回り大きくて重いと言われる。材質も荒く、縫い目も高いため大谷のような人並み外れたスピン量を誇る投手はマメもできやすく、それをかばうと肩、肘の負担につながりやすい。

 メジャーだけでなくWBC(ワールドベースボールクラシック)や五輪でも常に使用球の違いが問題視されるのに日本球界では統一球の実現に至らない。その原因はどこにあるのか?

 某球界関係者は「用具メーカーとの関係がすべて」と断言する。球団と用具メーカーとはグラブ、バットからユニホームなど、ありとあらゆるものが密接な関係にある。チームはそれによるサービスを求め、メーカー側はプロが自社製品を使う事によって他への販促につながる。持ちつ持たれつの関係だ。

 現在、日本で使用されているボールは数社による独占状態でプロの公認球はNPBの承認を得る。こうした図式の中で使用球を米国と同一にするには従来の製造ラインから品質まですべてを変えなければならない。すでに製造している在庫まで含めると一朝一夕に問題は解決できないのだ。

 とは言え、スポーツの世界は今や世界基準抜きには考えられない。全仏オープンテニスにサッカーのW杯しかり。野球だけがバラバラでは始まらない。

 今季から申告敬遠に、微妙な判定に対して異議申し立ての出来るリクエストシステムなどメジャー仕様の改革が進んでいる。それならば今後も増えるであろう日本人メジャーリーガーのためにも、世界と互角に戦う侍戦士のためにも、使用球の日米間格差は解消が急務である。出来そうでいて出来ていないもの。球界トップの英断が今こそ望まれる。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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