高卒2年目の飛躍
弱冠20歳でオリックスの勝ちパターンの一角を担った“神童”山本由伸の2年目が終わった。ルーキーイヤーの昨年は登板した5試合すべてに先発。1勝1敗、防御率は5.32という結果に終わったが、高卒1年目とは思えない投球内容で首脳陣からの期待も大きかった。迎えた2018年、開幕前は新加入のアルバースと先発ローテーションの座を争い、シーズンが始まるとファームで先発として調整を続けていた。
開幕一軍とはならなかったものの、4月23日に一軍昇格。しかし、ここではチーム事情もあって不安定だったセットアッパーを任される。福良淳一前監督は、昨年の秋季キャンプで「後ろでも使わせたいと思わせる選手」と語るなど、その適性を感じていたのだろう。
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結果的に、山本は“守護神”・増井浩俊へと繋ぐ『8回の男』として定着。54試合に登板して4勝2敗32ホールド、セーブもひとつあげ、防御率は2.89。首脳陣の期待に応える活躍を披露し、パ・リーグ新人王の有力候補に挙げられている。
山本由伸にとって今年は、まさしく“飛躍”の1年だったと言えるだろう。しかし、本人は「満足なピッチングは一度もない」と話す。その胸中にあるものとは――。
練習中の遠投で脇腹に違和感を覚えシーズン終盤に離脱した山本由伸だが、現在はキャッチボールも行っており、ほぼ回復しているという。そんな二十歳の右腕を直撃し、この1年を振り返ってもらった。
経験を糧に成長した2年目
多くのファンが期待している新人王については、「最後は離脱してしまったけど、1年間頑張ってきたので取りたい」と率直な思いを語る。ライバルとなるのは楽天の田中和基だが、高卒2年目ながら1年を通して活躍し、タイトル争いを演じた点を考えれば有力な候補と言えるだろう。短期間の離脱はあったものの、セットアッパーとしてほぼ1年を通して活躍した今シーズンは、身体のケアにもかなり気を使ったという。
「毎朝同じトレーニングをしています。試合で投げたりすると身体の感覚が変わったり、例えば今日は背中がちょっと張っているから背中を入念に温めようとか、自分の身体を知るためと、自分の身体を強くする、パワーアップのためにやっています」
トレーニングの内容はストレッチのような体感トレーニングで、そのトレーニングは身体をケアするだけではなく、150キロを超えるカットボールにも繋がっている。
「去年は腕で投げていたので、去年のままだったら投げられなかった。今年はオフシーズンから全身で動く練習をしたので、今は全然力入れている感じなく投げられるようになりました。54試合に登板できたのも、オフシーズンの2カ月があったからだと思います。去年の僕には絶対無理でした」
山本由伸は、スライダーを“捨てて”カットボールを取り入れたことも含めて、昨年のオフシーズンに課題を克服し、トレーニングも含めていろいろな経験をしたことが、今年に活かされたと自負している。トレーニングに関してはこれからも継続していく方針だ。
先発への思い
今年、セットアッパーとして活躍したことを受け、来年の起用法に注目が集まる山本由伸だが、本人には先発への強いこだわりがある。
「今年は中継ぎで1年間やらせてもらって、良い場面ばかり投げさせてもらったので、すごく良い経験にもなったし、楽しく真剣に野球できました。だけど、やっぱり自分の本心は先発をやりたい。もっともっとチームを勝たせて強いチームにしたいし、自分ももっともっと凄い投手になりたい。今年1年は中継ぎだったけど、この1年はこれから野球をしていく上でのターニングポイントになったと思うし、絶対に生きてくるのは間違いない」
山本由伸の最終的な野球界での夢は「プロ野球…野球界のトップに立つこと」。故に「まだまだ満足することはない」。オリックスの、日本の、世界のエースになる。由伸が先発にこだわるのは、自分で描いている明確なビジョンがあるからだ。
その強い思いを、西村徳文新監督はどのように受け止めるのだろうか。
「満員御礼になるようなピッチャーに」
取材の最後に、今年の8月に二十歳になったばかりの山本由伸に「二十歳の決意」を聞いた。
「まだ胸に閉まっておきたいこともあるんですけど、小谷野(栄一)さんの引退試合を見させていただいて、やっぱり京セラドーム大阪が満員御礼の中で試合ができるのはいいなと思ったんです。だから僕が予告先発で発表された試合は、満員御礼になるようなピッチャーになります。それが僕が投げない日でも満員御礼になってチーム全体に広がるような。自分だけというのではなく、まずは自分がそういう存在になって、チーム全体で上がっていって優勝したい。きょうはこれぐらいにしておきます(笑)でもそれができたとき、もっとたくさんの人たちに僕のことを“神童”って言っていただけるんじゃないですかね」
山本由伸の思い描く未来。これを夢物語と言う人もいるだろう。決して簡単な道程ではないが、本人はいたって本気だ。今から乗っかったほうが絶対に面白い。今後も、山本由伸が夢へと向かっていく姿を、定期的に追っていきたいと思う。
取材・文=どら増田
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※お詫びと訂正(2018年10月22日12時00分)
初出時、タイトル獲得に関する記述に誤りがありました。大変失礼致しました。