短期連載:「令和」の野球 第4回
夏の高校野球甲子園大会は昨年、100周年の区切りを迎えた。日本高野連では、これを受けて「高校野球200年構想」を発表した。時代は平成から令和へ。来るべき100年は、まさに令和の野球からスタートする。
同構想の中で「普及」、「振興」、「育成」といった主な柱の中に「ケガの予防」が取り上げられている。過熱する高校野球人気にあって、特に投手の投げ過ぎは、肩や肘の故障に直結する。球数制限の問題は避けて通れない喫緊の課題だ。
昨年12月、新潟県高野連が、翌年の春季県大会から100球の球数制限導入を発表した。これに対して各県を統括する日本高野連は「県単位で決めるものではない」として、同県に再考を要請すると共に、投手の障害予防に関する有識者会議をこの4月から発足させて、あらゆる問題に検討を加えていくこととした。これを受けて同県では、先の決定を見送ることとしたが、鈴木大地スポーツ庁長官が「高校生が故障して投げられなくなるような状況を作らないよう話し合いを続けてほしい」と発言するなど、改革に向けて一石を投じたことは評価される。
高校球児と投球数
炎熱猛暑が当たり前となった夏の甲子園。昨年の決勝は大阪桐蔭と秋田・金足農が激突した。ゲームは大阪桐蔭の圧勝で終わったが、改めてクローズアップされたのが金足農・吉田輝星投手(現日本ハム)の投球数と疲労だった。
初戦から決勝まで全6試合で実に881球を投じた吉田は県予選でも636球を投げており、合わせれば1500球以上となる。ちなみに甲子園大会だけで見ても1998年、準々決勝でPL学園と延長18回の死闘を演じた横浜高の松坂大輔は782球。2006年早実高・斎藤佑樹は駒大苫小牧との延長引き分け再試合を含めて948球を要している。もっと付け加えるなら2013年の選抜大会に出場した済美高の安楽智大は2年生エースとして772球を投じて、その後の肩、肘痛が問題視された。
体の成長期にある高校生や中学生が肩の酷使をしたらどうなるのか? 球数制限を早くから導入している米国では2011年に研究チームが投げ過ぎと肩の問題をまとめている。これによれば、9~14歳の少年を10年にわたり追跡、年間100イニング以上を投げ続けると、それ以下の投手に対して約3.5倍の故障が発生したとある。これに対して日本では日本高野連が近年、小中高生を対象に、肩や肘の検診を始め、昨年は約5000人が受診したという。それでも投げ過ぎと故障の科学的根拠を野球界側が発表したとは聞かない。それも含めた有識者会議の発足である。
球数制限の是非
球数制限に関しては、様々な意見が飛び交っているのが現状だ。メジャーリーガーであるダルビッシュ有が「何でも挑戦した方が絶対にいい。新しいことを取り入れないと、球界自体も活性化していかない」と主張すれば、甲子園の優勝投手でもある元巨人・桑田真澄氏も「子供たちを守るには球数制限以外にありません」と時代に応じた変革を求める。
一方で高校球児を預かる現場には反対論も根強い。複数エースを持てる強豪校ならともかく、部員数の少ない学校では一人のエースに頼らないと試合にならない。仮に接戦の時に100球を超えたから交代して、二番手以降が打ち込まれたら、それでみんなが納得するのか? 今月、山形県高野連は県内加盟全チームに球数制限に対するアンケートを実施した結果を発表した。それによれば制限に賛成が1割、逆に反対は6割に上っている。
この問題は同時に都道府県の予選大会や甲子園大会の在り方にも議論が膨らんでいる。現在は大会期間中の休養日(甲子園では準々決勝後に1日の休養)や熱中症対策として「給水タイム」を実施、今後は試合開始時間を早めたり、ナイターも検討されている。しかし、球児の健康面を考えれば、まずは肩・肘の故障とこれからの予防策を一刻も早く示す時期に来ている。
大正、昭和、平成と甲子園では「腕も折れよ」の激闘が演じられ、それが野球人気を盛り上げても来た。だが、令和の時代は新たな野球像が求められている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)