コラム 2019.07.08. 13:00

中日応援歌騒動…球界にも「忖度」はあった?

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中日・与田剛監督

白球つれづれ2019~第27回・中日の御家騒動


 とんだ騒動に中日監督・与田剛も驚きを通り越して戸惑いの表情を浮かべた。

「これが今の世の中なんだね。知らないところでどんどん話が膨らんでいって悪い方向になる」

 7月1日、中日応援団の公式ツイッターアカウントで発信された告知が騒動の引き金となった。


 2014年から使用されてきた応援歌「サウスポー」の中にある「お前が打たなきゃ誰が打つ」のフレーズに、与田から「お前でなく、選手の名前で呼んでほしい」と注文があり、これを受けた球団職員が応援団側と話し合いを行った。その中では、「お前」の表現は子供たちにも悪影響を与えかねないとの指摘もあったと言う。こうした経緯も踏まえて当面、同応援歌は自粛の結論に至った。

 ところが、ネット社会でこの問題が取り上げられると、瞬く間に話題が拡散、テレビのワイドショーなどでも反響を呼び大問題となっていく。

 与田の説明によれば「応援歌をやめろとは一言も言っていないし、シンプルに名前で呼んでほしいだけ。自粛してとも言ってない」となる。それが、球団職員と応援団の話し合いでは、なぜ当事者の真意と違う結論が導き出されたのか? 騒動直後にはオーナーの白井文吾も「“お前”は聞いていて不愉快になる言葉。普通の言葉を使わないといかんね」と反応している。


様々な思惑や考え


 球団の総帥から現場の指揮官までが同じ思いでは球団職員もその意向を色濃く主張したとしてもおかしくない。言い方を変えれば「忖度」が働いたとみるべきか。

 与田の思いをこちらで勝手に推測すれば、代表的な応援歌「燃えよドラゴンズ」にたどり着く。1974年に発表された同曲は、これまで何度も改定を加えられてきたが、その時代に活躍した選手名を歌い込んできた。91年版には与田剛も登場。だから、「お前」ではなく選手名を呼んでほしいと希望したとしても不思議ではない。ちなみに、「お前」のフレーズが入った応援歌は巨人、DeNAやソフトバンクらでも使われており、他球団まで巻き込んだ論争になるとは思わなかっただろう。

 今回の騒動では、改めて球団と応援団との関係も話題になった。何で応援団は球団の要請を受けて自粛までしなければいけなかったのか、という視点だ。

 かつて、球界では応援団の一部に反社会勢力が入り込み、チケットの横流しや座席確保での横暴などが取りざたされた時期がある。某球団では試合前のロッカーにテキ屋グループの幹部が出入りしていたこともある。こうした中で大きな転機となったのが2002年に施行された「暴対法」だ。野球界もこれを機に「応援団のクリーン化」に乗り出す。この結果、反社会勢力は徹底的に排除された。と同時に応援団も球団のお墨付きがなければ活動できなくなる。

 「今の応援団は球団の言うことを聞かなければ球場から排除されてしまう」(某応援団関係者)のが現実なのだ。

 与田のちょっとした願望から端を発した今回の「お前騒動」。ネットではいろいろな書き込みが溢れているが、「そんなことで騒ぐ前に補強策でも考えろ!」の声が球団として最も耳に痛いだろう。5連勝の勢いで臨んだ巨人戦は騒動と時を同じくして3連敗。ここまで、もっともらしく筆を進めてきたが、たどり着いた結論はただ一つ。日本は太平楽だということだ。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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