第3回:小園海斗(広島/ドラフト1位)
久々に「高校ビッグ4」が再会したのは7月11日に行われたフレッシュオールスターゲームのことだった。吉田輝星(日本ハム)、藤原恭大(ロッテ)、根尾昴(中日)に小園海斗(広島)。1年前の甲子園を沸かせた駿馬たちが、どれくらい逞しく成長したのか? この舞台で結果を出したのは赤ヘルの未来を背負う小園だった。
ウエスタン選抜の1番打者として登場すると、いきなり見せ場はやってきた。イースタン選抜の先発・吉田と夢の対決。その4球目だった。全球ストレート勝負を宣言した吉田の146キロ快速球を、こちらもフルスイング、高卒新人では初の先頭打者アーチだ。続く打席でも右前打を放ち5打数2安打1打点の文句ない働きでMVPを獲得した。
高卒新人が本塁打を放ってMVPとなると92年のイチロー(当時オリックス)以来の快挙である。
スター選手になるには実力はもちろん、それ以外に「何かを持っている」ことも必須条件だ。長年レギュラーを務めた選手に衰えが目立ち始め、そのポジションに穴が開く。チャンスを与えられた時に結果を出して首脳陣に強いインパクトを残す。
巨人の坂本勇人は新人時代のレギュラー遊撃手だった二岡智宏が故障欠場の間にチャンスを生かした。ヤクルトの村上宗隆は、首脳陣が二軍で再調整も考え始めたときに本塁打を量産して今や4番の座に座る。小園もまた何かを持っている選手だ。
強肩、俊足、巧打でオープン戦から成績を残して「二軍に落とす材料が見つからない」とチーム関係者が絶賛した素材の持ち主。開幕は一軍で迎えたが直後のファーム行きは降格というより、実戦の経験をより多く積ませた方がいい、という首脳陣の親心だった。
目に見えない小園の力!?
そして、満を持して一軍デビューとなったのが6月20日、対ロッテ交流戦。いきなり、初打席で左安打を放つ。広島の高卒新人野手では90年前田智徳以来の記録だからやはり何かを持っている男なのだろう。しかも、この試合では635試合にわたって遊撃手としてフルイニング出場、不動の座を築いてきた田中広輔に代わっての先発出場。この時点で打率が1割台と低迷する田中へのカンフル剤として起用された側面もあるが、そこで即結果を残すところに小園の非凡さもうかがえる。
もっとも、派手なデビューにはとんだおまけもついていた。この試合から3試合連続で都合4失策を犯してしまった。元来、守備には定評のあったルーキーもさすがに落ち込んだと言われる。
再び、二軍生活を経て、一軍に戻ってきたのは7月15日。ジュニア球宴MVPの新たな看板を得て翌16日のDeNA戦で先発出場すると、同期新人の上茶谷大河から2安打。チームは試合前まで1分けを挟み11連敗の泥沼にあえいでいた。そんな苦境を救うルーキーのプレーぶりには指揮官の緒方孝市も高評価を与える。
「チャンスをモノにしようと若さを出して積極的にやっていく姿を見せてくれた。チームにも打線にもいい刺激になった」
まだ、一軍での出場は10試合に満たない。それでいて記念すべき初物で結果を残すなどファンに与えるインパクトは他のルーキー以上にすごい。今、地元の広島ではある怪情報が飛んでいるとか。今オフに田中広輔が巨人に移籍するのでは?という噂だ。東海相模高から東海大と巨人監督・原辰徳の後輩であり弟の田中俊太も巨人にいる。そんな話も「来季のショートは小園」という期待の裏返しかも知れない。
昨年までリーグ3連覇と我が世の春を謳歌した赤ヘルも今季は本調子には程遠い状態が続く。勝負の後半戦、小園の出番は意外と多くやって来るかも知れない。
<中間通信簿:65点>
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)