第3回:村上と近本の新人王争い
ペナントレース同様、個人タイトルの行方もデッドヒートの様相を呈している。特に激しさを増しているのがセ・リーグの新人王レースだ。
主役はヤクルトの村上宗隆と阪神の近本光司。プロ2年目、19歳の村上の成績は群を抜いている。19日現在(以下同じ)、35本塁打に94打点は、いずれもリーグのトップ3に入る。打率こそ「.230」ながら、その長距離砲の素質は近い将来のキングを予感させる。
何せ、この数字は1953年に中西太(西鉄)が記録した36本塁打、86打点を凌駕するもの。本塁打もあと1本で肩を並べる。10代選手としては66年ぶりの金字塔が目前だ。元祖・怪童も納得の二代目襲名と言っていい。ちなみに怪物の名を欲しいままにした清原和博(西武)は高卒1年目に31本塁打をマークして、2年目に87打点を記録、10代という範疇で見るなら村上は、あの清原をも、上回っている。
この、村上を猛追しているのが近本だ。18日のヤクルト戦に3安打固め打ちで今季の安打数を153本まで伸ばし、1958年の長嶋茂雄(巨人)に並ぶセ・リーグ新人最多安打に並ぶと、19日の試合で「長嶋越え」を果たした。長嶋と言えば「ミスタープロ野球」が代名詞。そのミスターを数字上とは言え越すインパクトは想像以上に大きい。
加えて、17日の同カードで34個目の盗塁を決めた。盗塁王争いのライバル・山田哲人の目の前で一歩リード、残り試合数はヤクルトより阪神の方が1試合多く、盗塁王の視界も開けてきた。
村上が弁慶なら、近本は牛若丸。巨体を揺らして圧倒的なパワーを発揮する村上に対して、コツコツと安打を量産して塁上を駆け回るのが近本だ。共にドラフト1位組ながら、村上が1年間のファーム暮らしで力をつけたのに対して、24歳の近本は大学、社会人を経ての即戦力ルーキー。選手としてのタイプが違い過ぎて比較は難しいが、球界全体に新風をもたらした功績は大きい。
東の村上と西の近本
さて、この二人で新人王に輝くのはどちらか? 個人的には衝撃度を加味して6分4分で村上有利と予想するが、事はそれほど単純ではない。新人王の選考方法が記者による投票になるからだ。
全国の新聞、通信、放送局らに所属するプロ野球担当5年以上の記者が選出する新人王。近年の総得票数を見ると概ね250~280票で最多得票者がタイトル獲得となる。そこで接戦になった場合は地域の特性も無視できない。大票田は関東と関西の記者になるが、関西は阪神一色で近本有利は動かない。
スポーツ紙を例にとれば村上のヤクルト担当記者は1人のケースが多いが、阪神担当はどの社も5~6人の大所帯。村上の場合は当該担当以外の記者の票をどれだけ得られるかがポイントになってくる。近本が盗塁王のタイトルを獲った場合、無冠で終わった場合の村上と評価が分かれるケースも出てくるだろう。
過去にも新人王レースで甲乙つけがたい接戦になったことがある。この場合は新人王を逃した選手に連盟から特別表彰を贈ることが多い。
代表例は1987年のパ・リーグ。15勝12敗で防御率2.88の阿波野秀幸(近鉄)と、15勝7敗で防御率2.89の西崎幸広(日本ハム)の一騎打ちとなったが、軍配は阿波野に。22完投の阿波野に対して、西崎の完投数16が決め手となったようだ。
打率3割、19本塁打で新人王を逃したのは1998年の高橋由伸(巨人)。この年のセ・リーグはルーキーの当たり年で、中日の川上憲伸が14勝6敗でタイトルを獲得。川上が高橋との直接対決を22打数1安打と完璧に抑え込んだのも要因となった。同年は高橋以外にも9勝6敗18セーブの小林幹英(広島)、打率.327の坪井智哉(阪神)と3人が特別表彰を受けている。
一生に一度の新人王。村上と近本の活躍を見れば2人揃って受賞させてやりたいが、そうもいかないのがルールだ。願わくば長嶋、中西、清原のような球史に残る大選手に育ってもらいたいものである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)