白球つれづれ2020~第4回・新たな世代の波
横浜DeNAベイスターズの新たな主将に佐野恵太選手が就任した。
球団は今季のチームスローガンを「NEW GENERATION IS HERE(新しい世代は、もうすでにここにある)」と発表したが、長年、主砲であり主将を務めてきた筒香嘉智の大リーグ・レイズ移籍を機に、新たな世代の波を意識し、ニューリーダーも若手から抜擢、25歳のキャプテンは12球団でも最年少のフレッシュさだ。
昨年暮れ、A.ラミレス監督は横浜市内のホテルに佐野を呼び出した。直々の主将指名だ。
「セルフコントロールと、しっかりした準備ができる。筒香の代わりはいないが、佐野は佐野のままで穴を埋める能力がある」。明るい性格でムードメーカーを務めてきた実績も加味しての指名に迷いはなかった。
それにしても大胆な人材活用である。25歳のプロ4年目。昨年までは主に代打要因、実績だけなら数段上のベテランも数多くいるのに、なぜ指揮官はこの男に賭ける気になったのだろう?
一番の理由は、佐野の過去3年間の歩みと進歩を間近で見て、チームの柱になり得ると判断したことだろう。2016年のドラフトは9位での指名。支配下登録選手の中では87人中84番目、セ・リーグに限ればどん尻だ。広陵高校-明大と野球エリートの道を歩んできた佐野にとっては、屈辱からのスタートだった。
しかし、1年目から一軍での出場を果たすと、2年目には勝負強い打撃で首脳陣の目に止まる。そして、昨年は開幕の中日戦で代打サヨナラ安打、4月のヤクルト戦では代打満塁本塁打を放つなど大ブレーク。規定打席不足ながら89試合に出場して打率.295、5本塁打、33打点と準レギュラー格の働き。8月には筒香に代わって4番も任されている。
代打稼業はまさに「セルフコントロールとしっかりした準備」が求められる。しかも、佐野にはクリーンアップを任せるほどの長打力もある。ラミちゃんの秘蔵っ子たる所以である。
指揮官は「4番・佐野」を明言
「最初に(主将の)話を伺った時には、正直不安もあったが、反面、そんな言葉をいただくのは光栄なこと。筒香さんが残した文化を継承しつつ、自分らしく明るいチームを作っていきたい」。
ベイスターズというチームは、よく言えばチームワークのとれた仲良しの集団だ。特に野手陣では、ベテランの宮崎敏郎、梶谷隆幸選手らも自分がチームを引っ張る、というタイプではない。そうした意味からもベテランと若手の融合を目指すラミレス監督には「NEW GENERATION」の旗頭として佐野に対する期待は大きい。
筒香の抜けた穴は、主将以外にもある。4番問題だ。むしろ、こちらの方がシーズンの戦い方に直結する。しかし、ここでも指揮官は佐野の名前を真っ先に挙げる。
チームには2年連続本塁打王のN.ソト、元打点王のJ.ロペスがいる。さらに今季からメジャー通算33本塁打の実績を誇るT.オースティン選手も獲得。ポスト・筒香を計算すれば、普通ならこの助っ人3選手の中から選ばれておかしくない。それでも4番・佐野を宣言するあたりに監督の思惑も透けて見える。
外国人選手を指名するのは簡単だが、まずは佐野を中心にチームを組み立てて競争心を煽り、プラスアルファを生み出そうとするものだ。まさに佐野の成長がチームの命運まで握る。
巨人の坂本勇人選手は念願のリーグ制覇で主将の重責から卒業を希望したが、原辰徳監督に続投を要請された。秋山翔吾選手のメジャー流失(レッズ移籍)で空いた西武の主将は源田壮亮選手が務める。ヤクルトは高津臣吾監督たっての希望で38歳の青木宣親選手におはちが回ってきた。主将とは、チームの顔であり、現場の監督格でもある。
代打の星から横浜の星へ。佐野恵太の新たな挑戦はもう始まっている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)