今キャンプではプロ初の調整一任
「挑戦」という言葉を使ってこの1カ月を表現した。
「プロに入って調整を任されるのは初めてなので。自分の中でも挑戦。シーズンの最後まで投げられる土台を作り上げていきたいです」
声の主は阪神タイガースの7年目左腕・岩崎優だ。
沖縄・宜野座キャンプでは連日、能見篤史、藤川球児、新助っ人のジョン・エドワーズらと同じグループで汗を流してきた。それが意味するものは「一任」。ふるいにかけられながらポジションを奪いに行く若手とは違って、ベテランや外国人のように信頼されている1つの証と言える。
一方で、そこに強い「責任」が生まれることも確かだろう。首脳陣も開幕にベストコンディションを持ってくるものと計算しており、チームの根幹を成す1人だからこそ、調整遅れなどは許されない。
どんな色で、何を描いても自由。まさに「白紙」の状態から岩崎の今年のキャンプは始まった。そんな中、序盤からテーマは明確。ブルペンでは「土台」を意識して腕を振ってきた。5勤だった第1クールが象徴的で、合計4度のブルペン入りで全力で投球することは、一度もなかった。最多120球を投じた4日も力投するのではなく、どちらかと言えば「脱力」した状態で球数を重ねていった。
「まずはフォームのバランスをしっかり固めていかないといけないので。(120球投げた4日も)力は40%ぐらいしか入れていないですね。最後は変化球も投げましたが、あれは20%もいってないですね。軽く腕を振ってるような感じですけど、あれで良いと思ってます」
木に例えるなら、序盤はしっかりと「根」を張り巡らせる段階なのだろう。
「まだ体が追いついていってないので」とも話したように、深く、強く支えるものが無ければ、どれだけ成長してもその“重み”に耐えられず倒壊してしまう。フォームといっても1つではなく、足を上げる通常のものと、走者を背負ってのクイックモーション、直球、変化球と様々なバリエーションにそれぞれ時間を割いた。
昨季最後の1試合で味わった苦い記憶
「根」にこだわるのには当然、理由がある。昨年は48試合に登板し防御率1.01と驚異的な安定感を見せてブルペンの一角に定着したものの、シーズンを戦い終えて残ったのは「悔しさ」だけだった。
巨人と相まみえたクライマックスシリーズ・ファイナルステージ第4戦。1勝3敗と王手をかけられた土壇場で1点ビハインドの7回に登板も、ゲレーロに試合を決定付けられる2ランを浴びた。
「良い数字を残せたとかそういう気持ちは全く感じなかったので。ただ、最後打たれて終わったシーズンだったなと…悔しさだけです」
“最後の1試合”がキャリアハイのシーズンに影を落としていた。「昨年と同じ成績を残しても意味はないと思ってるんで。上を目指して、最後の試合までチームに貢献できるように」。秋の苦い記憶を塗り替えるためにも、簡単には崩れない土台を春から作り上げていかなければいけない。
「挑戦」がそんな簡単なものでないことは分かっている。初めての実戦形式だった13日のシート打撃では打者6人に対して安打こそ浴びなかったが、3四球と制球を乱すなど精彩を欠き「どんな感じか(今の状態が)分かったので。次は良い方向に持っていけるように」と淡々と振り返った。
ただ、そんな苦投も今は過程でしかない。あくまで照準を合わせるのは3月20日の開幕であって、見据えるのは秋のポストシーズン。対外試合での登板も視野に入れながら“挑む1カ月”は終盤に入ってきた。
今季期待されるのは、年間通して守護神・藤川につなぐ勝ちパターンでのフル回転。メジャー経験のある豪腕・エドワーズを差し置いて「8回の男」を虎視眈々と狙っている。
昨季の悔しさからリーグ優勝への思いをより強くしたという背番号67。ブルペンの“大木”となってチームを支える。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)