影響力絶大!選手たちが持つ発信力
プロ野球選手会(巨人・炭谷銀仁朗会長)が呼びかけたクラウドファンディングが大きな広がりを見せている。
新型コロナウイルスの感染拡大防止支援のため、12球団の支配下登録全725選手が一致結束して「コロナ基金」を募り、その活動資金を寄付しようというものだ。寄付金の助成は4回に分けて行われ、寄付の募集は7月2日(木)の23時までとなっている。
今月8日から活動を開始すると、続々賛同者は増えて今では野球関係者だけでなく、他競技のアスリートたちにも運動の輪が広まって15日11時時点で7945名から1億5167万円の浄財が集まった。同日には第1回目の助成採択結果を発表、17日までに計4629万7200円が10団体に助成される。
ソフトバンクの元気印、松田宣浩選手が始めた「熱男リレー」も大反響。ホームランの直後に右手を高く掲げて「あつおー!」と絶叫するパフォーマンスを、プロ野球選手だけでなく様々なアスリートや著名人が真似てインスタグラムなどにあげている。こんな息苦しい世の中だけに、一時だけでも発散材料になれればいい。
「見せましょう、野球の底力を」。
当時、東北楽天で選手会長を務めていた嶋基宏選手(現ヤクルト)が、東日本大震災直後の慈善試合で感動のスピーチを披露してから9年が経つ。東日本一帯を襲った大震災と今回のコロナ禍の事情は大きく違うが、それから2年後の13年秋に東北楽天は日本一に輝き、歓喜の涙があふれた。改めて野球の持つ魅力、底力を思い知らされたものだ。
様々な野球界と…
一方で、今回のコロナウイルス感染によって、生活の基盤を失いそうな人々は限りなく多い。野球界で言えば独立リーグの選手たちもそうだ。
NPBでの活躍を夢見て白球を追う。彼らもまた、4月11日開幕予定が現在は5月中旬以降に延期となり、先は見えない。待遇面も厳しく、本来なら4月から9月までの半年契約で給与はキャンプ時が10万円、シーズン中は15万円。もちろん、オフは多くの選手がアルバイトで生計の道を立てる(※栃木・ゴールデンブレーブスの例)。
元々、球団経営は厳しく、この先の試合開催が伸びれば伸びるほど、選手の人件費を圧迫する。こうした状況は独立リーグに限らず、女子野球や社会人野球なども例外ではない。小さな社会人のチームでは社業の落ち込みで休部、廃部に追い込まれることも考えられる。
そんな折、サッカー界の取り組みに感心させられた。14日付の日刊スポーツの取材に応じた田嶋幸三日本サッカー協会会長が、サッカー界全体を救うプロジェクトチームの設立を表明している。
日本サッカーの組織は、J1、J2、J3のプロリーグを頂点に、JFL、地域リーグ、都道府県リーグなどに細分化。各クラブの経営状態は、野球以上に脆弱と言われている。そこにコロナの直撃だ。
田嶋会長は「Jのクラブにしても街クラブにしても、危機的な状況になった時には、我々がそれをしっかりつなぐことを考えないといけない。借金をしてでも救済することを考えていかなければ、サッカー自体が死んでしまう」と、底辺のクラブまで含めて救済の道を模索する。自らがコロナウイルスに倒れて、入院生活を送っただけに、その言葉には説得力があり、思いがにじみ出ている。
未曾有の災難を改革の契機に
この気概とスピード感を野球界にも是非、共有してもらいたい。以前の当連載でも触れたが、日本の野球界は日本プロ野球機構(NPB)以外にも、社会人を統括する日本野球連盟があり、大学、高校にも各連盟が存在する。
近年は協調の道を進めているが、過去にはいがみ合った時代もあり、一本化の道はまだ半ばと言える。さらにNPBのトップであるコミッショナーは12球団の意向も働いて選出されるため、発言力も権限もメジャーリーグの同職とは雲泥の差があるのが実情だ。
かつて、サッカーにプロのJリーグが誕生する時、当時の川渕三郎チェアマンらは、プロ野球界の仕組みと問題点を洗い出して組織を立ち上げている。今や、サッカー界にあって、野球界にないもの。それは野球界全体で問題意識を共有して速やかに立ち上がるパワーだ。
選手たちのチャリティーに頼ることなく、球界のトップが速やかに資金集めの活動に乗り出し、存続の危機にある街のチームや少年たちに寄り添い、発信する。そんな“オールジャパン”の組織に生まれ変わって欲しい。
100年に一度、いや未曽有の災難である。だが、こんな時だからこそ、見つめ直せる問題点もある。ピンチをチャンスに。野球離れが指摘されてきた今だからこそ、抜本的な改革が求められる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)