恩師も認める“強心臓”
少しずつ答えに近づいているような、分かったつもりだけのような…。広島ドラフト1位・森下暢仁投手(22)の人柄は、見る角度によって違った色を見せる。
マウンド上では、新人らしからぬ冷静さで淡々と投げ込む。明大時代の恩師であり、昨季限りで監督を退任した善波達也氏は、強心臓の一面を明かす。
宮崎・天福球場での春季キャンプを視察した際には、一挙手一投足に注目が集まっていた“ドラフト1位”の宿命にも、全く心配しなかった。「大学でも日本代表でも重圧と責任感を経験しているから大丈夫だと思います。彼らしく乗り越えてくれるでしょう」。
森下自身も、キャンプ後半には「(注目度には)だいぶ慣れました」と笑ったように、立ち振る舞いは堂々としたものだ。
「人見知り」だけど「一人で居られない」?
一方、ユニフォームを脱げば、落ち着いた性格は様変わりする。
同期入団のドラフト5位・石原貴規捕手(22)は、「たぶん一人で居られないタイプですよ」と笑う。お互いに初体験だった春季キャンプでは、「明日何時に起きる?一緒に朝ご飯食べよ」と持ちかけられ、朝食会場でもともに過ごしていた。どうやら人懐っこさも持ち合わせているようだ。
「人見知りはしますけど、結構話す方だと思います」と森下。
練習風景を見れば、年下の遠藤淳志らと笑顔でふざけ合い、大瀬良大地らの先輩とも気さくにコミュニケーションを取っていて、カメラを構えれば、多くの時間をかけずに表情豊かな写真が撮れる。すっかりチームに溶け込み、ポーカーフェイスなイメージも消え始めている。
実直な対応と、内に秘めた闘志
そして、質問には一切脚色をせずに答え続ける。
今季の目標を聞くと、「数字のことはよく分からないので…。まずは一つ勝ちたいです」と口にした。“2ケタ勝利”など安易にその場で目標を創作したりはしない。こういった場面を何度も目にしてきた。典型的なコメントでやり過ごさないところに実直さが表れる。
だからこそ、コメントにリアリティーがある。
「同学年と対戦するときは、しっかり勝ちたい」
3月22日に行われた中日との練習試合では、珍しく対抗心を口にした。同じ東京六大学で戦った郡司裕也(慶応大)との対決は、2打席連続の見逃し三振。完勝だった。
郡司との初対戦は、大学1年春の新人戦。当時は右肘に不安を抱え、直球を140キロ台前半に抑えていた。しかし、郡司を迎えたところで140キロ台後半を連発するなど強度を上げると、患部に異変を感じて降板。のちに右肘骨折が判明した、という過去がある。大学4年間での強烈なライバル心が、後のドラフト1位指名へとつながった。
一見するとおとなしそうな性格も、愛嬌あり、人一倍の負けん気もあり。シーズンが始まれば、また新たな顔をのぞかせることだろう。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)