チームに「一体感」を浸透させる
風通し良く新風が吹いている。「投手と野手、レギュラーとベンチに控える選手、みんなで勝つ喜びと負けた悔しさを共有できるように、一体感のあるチームづくりを心掛けたい」。佐々岡真司監督は、就任会見から「一体感」を口癖にして、ナインの合言葉として浸透させた。
新型コロナウイルスの感染拡大により、接触人数を減らそうと4日8日からチームを複数班に分けた時差分離練習がスタートした。全選手、首脳陣が再び集まるのは、44日後の5月21日。そのときも「いまからみんなで、今年のテーマである一体感を持って、一つの目標に向かって一つのチームとなって戦いたい」と強調したように、思いは不変だった。
昨季チーム内からは「ベンチが一体となって喜んだりするのは3連覇のときに比べたら少なかった」との声もあった。決してナインがバラバラの方向を向いていたわけではない。引き分けを挟んでの11連敗も経験した。優勝争いの張り詰めた緊張感から一転、Bクラス阻止を目標に変えざるを得ないモチベーション維持の難しさに、選手たちは悩み苦しんでいたのだ。
プロ野球監督通算勝利数2位の1687勝を挙げた名将、三原侑氏曰く「アマは和して勝つ。プロは勝って和す」。一方で、佐々岡監督は「和して勝つ」を掲げていると言ってもいい。「コミュニケーションを取りながら…が自分のスタイル」。言葉通り、投手コーチ時代と変わらず、練習中から選手との会話は積極的だ。春季キャンプでは、投手、野手を含めた全選手が参加するベースランニングを導入するなど、勝利での団結を待たずして、一体感を演出している。
伝統の「守り勝つ野球」の再構築へ
監督が代わろうと、赤ヘルが目指す野球は伝統的に「守り勝つ野球」と決まっている。「基本は投手中心で、しっかり守るカープ野球をやっていきたい」。監督就任後、最初に手を付けたのは岡田明丈の救援転向だった。さらに、矢崎拓也、ケムナ誠の150キロ右腕を次々と救援テスト。3投手とも開幕は2軍スタートとなるものの、聖域を設けずに守りの野球の再構築を目指した。
昨季の反省があった。4年間務めた2軍投手コーチから1軍担当となった昨季、春季キャンプから「先発10人構想」を掲げて、一岡竜司、中崎以外の投手に先発争いを課した。しかし、不安定だった勝ちパターンは白星を逃す要因にもなった。一転、今春は先発候補を絞り、救援争いの充実を図っている。「3連覇は(盤石な)7~9回があったから。立て直さないといけない」。新助っ人DJ・ジョンソン、スコットの両投手はともに救援型。指揮官の要望もあり、先発助っ人の獲得を見送ってまで「勝利の方程式」を再編しようとした狙いがあった。
選手へのメッセージの伝え方にも、新監督の個性が出る。緒方孝市前監督は、基本的に技術指導を担当コーチを介して行うなど、選手とのコミュニケーションは限定的だった。さらに、報道陣の前で個人名を挙げて称えることはあっても批判することはなく、指揮官の胸の内は推し量るしかない部分もあった。
一方、佐々岡監督も投手コーチ時代に公に苦言を呈することは滅多になかったが、監督となった春季キャンプでは、節目で厳しい言葉を送って奮起を促した。例えば、日南1次キャンプで低調だった遠藤淳志を見かねて、1月に合同自主トレを実施したソフトバンク・千賀滉大を参考にした急造フォームに言及した。「2、3日一緒にやったぐらいで名前を出すことは千賀君に失礼」。珍しく苦言を呈したコメントは当然、遠藤の耳にも入った。「(ハッパを)プラスに捉えないと投げていけないですから」。危機感は復調への力と変わり、開幕ローテーションに名前が挙がるまでに評価を取り返した。春季キャンプから状態の上がらない床田寛樹には「しっかり練習しているところも見えている。苦しめばいい」と、ときに温かく見守り、床田自身は「期待してもらっているので必死に投げたい」と意気に感じながら不調脱却へ腕を振った。
球団では長谷川良平氏以来53年ぶりの投手出身監督である。投手と野手の壁を取り払おうとする「一体感」のキーマンは、佐々岡監督自身かもしれない。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)