コラム 2020.09.11. 10:50

地元・栃木に「地域密着」…元ロッテの守備職人・岡田幸文のいま

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栃木ゴールデンブレーブスで外野守備走塁コーチを務めている岡田幸文

シンデレラストーリー


 ロッテに新たなスピードスターが誕生した。和田康士郎21歳。その俊足を生かした盗塁と広い守備範囲でポジションをつかみつつある。

 彼が注目を集めたのは、その俊足だけではない。中学までは野球をしていたものの、高校では陸上部に入部。しかし、甲子園のテレビ中継を観て再び野球を志し、クラブチームでプレーを再開させた。その後、独立リーグを経て育成選手としてプロ入りしたという異色のキャリアも「令和のシンデレラストーリー」として語られている。

 その彼の現在の目標は、「ホームランを打つこと」だという。しかし、そのプレースタイルと異色の経歴がオーバーラップする、同じロッテの大先輩には、ホームランゼロのままプロキャリアを終えながらも、主力選手としてファンの記憶に刻まれている選手がいる。2010年の中日との日本シリーズで決勝タイムリーを放った岡田幸文だ。

 2018年限りで引退した彼は、指導者としての道を歩み出し、現在はロッテに籍を残したまま、和田がプレーした富山GRNサンダーバーズと同じルートインBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスで外野守備走塁コーチを務めている。


「育成の星」として駆け抜けた現役時代


 和田と違い、岡田は高校時代までは、野球エリートだった。栃木の名門、作新学院高で主将を務め、日本大学に進学したものの、肘の故障から大学を中退し、いったんは野球から離れてしまった。

 そんな岡田は、故障が癒えて、故郷のクラブチーム、足利クラブでプレーを再開したのは2004年のこと。この翌年に、日本にも独立リーグができたが、そこでプレーしようと考えたことはなかったという。

「今でこそプロへの登竜門という感じですが、当時は実業団も多かったし、クラブチームも実業団上がりの人がたくさんプレーしていてレベルも高かった。そもそも独立リーグって何? みたいな感じで見ていました。それに絶対にプロっていう気持ちが自分自身になかったですし。大学中退して、バイト辞めて、それから足利クラブに拾ってもらったということもあって、ここで頑張ろうって思っていました」

 地元・栃木で職を得て結婚もし、子供ももうけた岡田だったが、やがてその俊足と守備力がプロのスカウトの目に留まる。2008年のドラフトでロッテから指名されると、育成6位という順位ではあったが、24歳の岡田は、家族と離れてプロの世界に飛び込む決心をした。その後の活躍は周知のとおり。2年目に支配下登録されると、球団寮を離れ、家族のいる栃木からの「長距離通勤」に切り替えたことも話題になった。

 3年目に1番センターに定着すると、その圧倒的な守備力でファンを魅了。ゴールデングラブ賞2回、リーグ新記録の外野手シーズン359回連続守備機会無失策を含む602回の外野手シーズン連続守備機会無失策を記録した。


独立リーグの指導者として


 前述のとおり、岡田は2018年限りで引退。そのまま球団に残り、昨年からは地元栃木のゴールデンブレーブスに派遣され、プロを目指す若者たちを指導している。

 ロッテと言えば、四国アイランドリーグから入団し、首位打者にまでなった角中勝也という「独立リーグの星」がいるが、現役時代は、独立リーグという世界をイメージしたことはなかったと言う。「プロに行きたい連中が集まるところというのは知っていましたが、それ以上のことは考えたことはなかったですね」

 だから栃木でのコーチ派遣について、「故郷に錦」などという特別な思いもなかった。ただ実際、汗にまみれる選手たちを目の前にすると、なにがなんでもプロの舞台に立ちたいというすさまじいまでの熱を感じたという。

 それでも、その彼らの姿を昔の自分と重ね合わせることはしない。岡田自身は一旦野球のエリートコースから外れながらもプロ野球という夢の舞台に立つことができた稀有な経験をしてきたが、実際はなかなかそうはならない。その現実を知るが故に、独立リーグからプロという茨の道を歩んでいる選手を見る目は厳しい。

「やっぱりプロに進むには、彼ら選手自身が自分に何が足りないかということを考えることも大切ですが、獲る側のチームにその選手が当てはまらないとダメなんです。どれだけいい選手であっても、正直タイミングというか、運と言ってしまえば、それまでなんでしょうけど、そういうものも大きいんです。それでもここにいる選手たちは、結果を出し続けなければならない」

 毎年のようにドラフトで選手をプロ球界に送り出している独立リーグの現在のプレーレベルは決して低くない。しかし、そこでプレーしている選手たちは、甲子園、神宮、都市対抗といったプロへの「レッドカーペット」から外れ、滑り落ちてしまったことも厳然たる事実である。スカウトの目も当然、「本命」それではなく、「掘り出しもの」を見るそれである。

「素質は十分な選手が多いことは、試合を見てもらえばわかると思います。レベルは高い。でも、結局ドラフト漏れの集まりですから。そこからプロを目指すということはどういうことなのか。プロには12球団ありますので、そこにどうハマるか。結果を出し続けながらハマるタイミングまで待たないとダメなんです。だからもうアピールし続けるしかない。厳しいですよ。そのことは選手にも伝えています」

 実際、独立リーグには「ドラフトの隠し玉」と言われながら指名を見送られている選手も少なくない。彼らが「プロへ進むんだ」という志を保ち続けるには、かなりの精神力が必要である。テンションが落ちてしまう選手もいるだろう。それも理解した上で、岡田の視点は厳しい。

「そこで心が折れたら、それまでの選手ということ。スカウトさんはたくさん来てくれます。それで、どの選手を見に来たと言ってくれますから。特に今年は去年以上に足を運んでいただいています。そこでスカウトの目に留まったらもう最高ですけどね」


「夢を叶える場」であり「夢をあきらめる場」


 今や独立リーグには頻繁にスカウトがやって来る。選手たちにもそれは伝わり、スカウトがやって来た試合では、目の色を変える選手もいる。しかし岡田は、スカウトがいようがいまいが、自分のペースを保つ選手の方がプロ向きだと考えている。

「もちろんピッチャーなんかは、(スカウトが来てると)言われて、よし、今日は強い球を投げてやろう、150キロ出してやろうっていうのはありでしょうけど、野手の場合は普通にやっていればいい(笑)。今までどおりに。スカウトが来たから、やってやろうって力が入るのか、普通にいつもどおりやるのか。普通にやってもらいたいですね。何かキッカケがあるから頑張るっていうのでは、プロの143試合は戦えない。今日は頑張ろうとか、そういうのではなく、コンスタントに結果を残すのがプロなんです」

 独立リーグは「夢を叶える場」だとよく言われる。しかし、一方で「夢をあきらめる場」でもある。実際は大多数の者にとって、独立リーグは後者として彼らの野球人生の最後を締めくくる場だ。だから、独立リーグの指導者のアプローチは2つに大別される。

 ひとつは、基本的に独立リーグからNPBに進むなんて簡単にはできない、だから、それを前提に指導する。つまりは、ある意味、引導を渡すのも自分の役割なんだというスタンスだ。もう一方は、プロを目指す選手を預かったからには、指導者が最初から無理だと思うべきでない。だからどうやればプロに進めるのかということに力点を置いて選手に接するという考え方である。

 岡田にとって、独立リーグとは、「夢を叶える場」、「夢をあきらめる場」のどちらなのだろう――。この質問に、岡田は少し間をおいて答えた。

「難しいですね。僕は、あきらめる場だと思います。もちろん指導しているときは、ドラフトにかかってほしいと思っていますよ。でも、野球の前にみんな社会人なんで、野球だけやっていてもいけないんです。社会人としてどうあるべきか、そのために今、野球をやっているんだよって選手には伝えたい」

「決して、ここがゴールではない。引退後の人生の方が長いんです。1年、もう1年ってやっていても歳をとるだけなので。プロだって若くて生きのいい選手を欲しいでしょう。厳しい環境ですが、目標がある以上、それを目指して一生懸命やるのは当たり前なので。その上で、選手たちには次のステップに進んでほしいです」

 元メジャーリーガー、川崎宗則ら「大物」の入団で話題の栃木ゴールデンブレーブスだが、基本はプロを目指す若い選手の育成に力を入れている。自らが紡いだシンデレラストーリーを受け継ぐ後継者を育てるべく、岡田は今もフィールドに立ち続けている。


文=阿佐智(あさ・さとし)

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