名門・早稲田のエース
いよいよ10月26日に迫ったプロ野球ドラフト会議。春先は公式戦が軒並み中止となり混沌とした状況が続いていたが、高校野球の代替大会や大学野球の秋季リーグ戦、社会人野球の都市対抗予選が行われたことで、大まかな展望はようやく明らかになってきた。
今回は、そんな中でも今年大きく評価を上げたであろう、“大学No.1サウスポー”を取り上げたい。
ターニングポイントは「8月の春季リーグ戦」
木更津総合時代は2年春、3年春・夏と3度も甲子園に出場。高校日本代表にも選出されている。しかし、早稲田大進学後は早くからマウンドを任されていたものの、決してここまで順風満帆だったわけではない。
まずは、1年春から3年秋までの各リーグ戦の成績を振り返ってみよう。
▼ 早川隆久・年度別リーグ戦成績
1年春:8試合 1勝2敗 防御率5.12
1年秋:7試合 0勝1敗 防御率6.00
2年春:4試合 0勝3敗 防御率4.80
2年秋:8試合 1勝1敗 防御率1.72
3年春:8試合 3勝2敗 防御率2.09
3年秋:9試合 2勝4敗 防御率3.00
こうして見ると、勝ち越したシーズンは3年春の1季のみ。3年間の通算成績は7勝12敗と負け越している。
昨年、大学No.1の評価を受けていた森下暢仁(明治大→広島1位)も、3年時までの成績が物足りないと言われていたが、それでも9勝8敗と勝ち越している。
このような事情もあって、春先まではあくまで1位候補の一人という印象が強かった。
そんな早川の評価が一変したのが、8月に行われた春のリーグ戦だ。
初戦の明治大戦では自己最速を更新する155キロをマークして12奪三振・1失点の完投勝利を果たすと、続く慶応大戦も勝ち負けこそつかなかったものの、154キロをマーク。さらに、秋のリーグ戦でも初戦で17奪三振の1失点完投と快投を見せ、一躍ドラフト戦線のトップに躍り出る。
そんな早川の実力を改めて確かめるべく、10月3日に行われた法政大戦を取材した。
この日も早川は初回から3者連続三振と抜群の立ち上がりを見せると、2回以降も順調にアウトを積み重ねていく。試合はこちらもドラフト候補となる鈴木昭汰との息詰まる投手戦となったが、最終的には2-0で勝利。リーグ戦初完封を13奪三振・無四球で飾って見せた。
最速は151キロ、際立つフォームの良さ
この日のストレートの最速は151キロ。平均球速も146.8キロと十分な速さがあったが、それ以上に際立っていたのがそのフォームと制球力の高さだ。
走者がいなくても、セットポジションから投げ込むスタイル。右足を上げてから踏み出す前にわずかに重心を下げる動作はあるが、無駄な動きはほとんどなく、左肘を早めにたたんで体の近くで沿うようにして腕を振るため、打者から見ると本当にギリギリまでボールが見えない。
よく前方(左投手なら右)の肩の開きを我慢することが重要と言われるが、早川に関してはその極みに達しているように見える。高校時代からこの良さはあったものの、大学ではスピードアップを意識してか、開きが早く見えた時期もあったが、現在ではそのような悪癖は全く見られなくなった。
また、フォームにおけるもう一つの大きい長所が「球持ちの長さ」だ。
この日投げ合った鈴木もコンスタントに145キロ以上をマークしていたが、その差は明らか。同じ球速でも、早川のボールの方が明らかに打者の手元で勢いが感じられた。
早稲田大の先輩である和田毅(現・ソフトバンク)も大学時代からボールの見づらさに定評があったが、球持ちの長さとスピードに関しては、早川の方が上回っていると言えるだろう。
凄みさえ感じる“脅威の制球力”
そして、さらなる凄みを感じるのが「制球力の高さ」である。
今年は春と秋のリーグ戦で計5試合・36回2/3を投げ、与えた四死球はわずかに3つ。1試合当たりの四死球率は0.74となっている。この点も昨年までとは大きく進化したところと言えるだろう。
この日も13個の三振を奪っているが、球数は112球と決して多くない。ただ四球を出さないだけでなく、全てのボールをコーナー、低めに集められるコントロールは見事という他ない。
ちなみに、この日は打者としても2安打をマークしており、第3打席のセカンド内野安打では4.0秒を切ればかなりの俊足と言われる一塁到達タイムで3.89秒をマークしている。これは投手としては“破格の数字”と言えるだろう。
さらに、出塁した後にも相手のミスを突いて次の塁を陥れる積極的な走塁も見せていた。
ここまで安定したフォームで、スピードと高い制球力を兼ね備えたサウスポーはなかなかいるものではない。ドラフト当日には「何球団が1位指名するか」という点が大きな焦点となることは間違いないだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所