第6回:ドラフト1位・木澤尚文の決意
学ラン姿の青年は、はきはきとした口調でプロとして歩んでいく心境と決意を言葉にした。
「これまでと違って職業として野球をやるということは、どれほど意味合いが大きいのかということを改めて認識しました」
11月20日、ヤクルトからドラフト1位指名された慶應義塾大の木澤尚文投手が都内で入団交渉に臨んだ。背番号は「20」に決定。高速スライダーを武器に、1993年に新人王に輝いた伊藤智仁もつけた番号を背負うことになり、「非常に大事な20番」と重みを口にした。
印象的だったのは、自身のアピールポイントについて答えたときだった。
「僕自身のアピールポイントは、持っているボールとかそういったところよりも、チームのために尽くす。チームのために投げる。そういう気持ちで使命を持って大学4年間やってきたので、チームのために投げるというスタンスは変えずに、僕の持ち味としてやっていきたいと思います」
大学最後の試合となった7日と8日の早慶戦では、慶大のエースとして奮闘した右腕。初戦は先発で優勝のかかったマウンドに上がったが、早稲田大・早川隆久(楽天1位)との投げ合いに敗れた。2戦目は8回途中からリリーフ登板したが、9回あと1死で降板。後続が打たれてチームは逆転で優勝をさらわれた。
木澤は「一個のアウトの難しさを改めて感じた」という。それでも、「一つのアウトを取るということが、どれほど難しいのかということを学んだ上でプロの世界に進めるのをプラスにしていきたいと思います」と、前向きに捉えた。
チームへの愛
「僕自身ができることを全部出して、1年目から神宮のマウンドでヤクルトスワローズのために勝利に貢献したいなと思っています」
大学時代の経験を糧に、次に目指すのはスワローズのユニフォームを着てチームに貢献すること。決して上辺ではない言葉に、木澤の「野球人」としての強い信念を感じ取れる。
そして、「チームのために」という言葉が“共通言語”としてスワローズに当たり前のように浸透し続けることが、2年連続最下位からの巻き返しを図る上で欠かせない。
もちろん、今季もスワローズの選手たちはチームのために1年間戦い抜いてきた。
今季最終戦のあと、高津臣吾監督は「選手は歯を食いしばって辛い時期も乗り切ってくれましたし、体が痛いのも我慢して出続けた選手もいます。そういうところは本当に頭が下がります」と、選手たちを労った。
こうした指揮官の思いも、選手たちの“チーム愛”に少なからず繋がっていったはずだ。
チームの顔である山田哲人が、FA権を行使せずにヤクルトに残留。「正直に今までで一番悩みましたが、FA権を行使せずに残留することにしました。さらに活躍できるように努力したいと思います」とコメント。
クローザーの石山泰稚も「これからもスワローズのために努力し、頑張っていきたいと思います」とコメントし、山田と同じくFA権を行使せずにチームに残留することを決断した。
言葉はそれぞれ違うが、そこにはチームへの思いが根底にある。
今季はキャプテンとしてチームを引っ張った青木宣親は「自分はヤクルトでプレーしたいので、それはアメリカから帰ってきてからも今も、そういう気持ちです」と話している。
投打ともに課題が多いヤクルト。だが、それは、新たに加わる木澤をはじめとした新戦力や、現有戦力の底上げで一つずつ埋めていくしかない。
チームの未来を背負う木澤の言葉が象徴しているように、来季、ヤクルトの伝統ともいえる「団結力」がさらに強固になることを期待したい。それが逆襲への原動力となるはずだ。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)