「根尾をどうしようか」
中日・大島洋平の頭には“一挙両得プラン”が浮かんでいた。
対象はチームメートの高橋周平と根尾昂。来年1月の自主トレに、高橋を4年連続で連れて行くことは決めていた。ここに、仲間を1人増やす。それが根尾だ。
「根尾をどうしようか、と考えました」
その答えが、高橋に根尾の打撃指導役を任せることだった。
「周平の成長になる」
振り返るのは、高橋が大島塾の門を初めてたたいたとき。
「言葉で伝えるのって、本当に難しいです。僕は、周平に伝えることで、自分の頭を整理できたと思っています。次は、その役割を周平にやってもらいたいです」
大阪・日本生命の施設を使う大島塾の一日は、ケガする寸前まで追い込むハードトレで幕開けする。昼食をとり、ボールを使うのは午後になってから。ティー打撃や打撃マシン、キャッチボールからノックまで、各々が課題に向かう。
高橋に任せるのは、打撃アドバイス。1月上旬から沖縄出発直前までの約2週間を予定している。
「周平がうまく説明できるようになると、周平の成長になります。困っていたら、僕がいます。根尾がよくなればいいと思います」
「速い真っ直ぐをどう打つか」
2年目の根尾は初のオフとなる昨季、大阪桐蔭高の先輩・平田良介と米国で自主トレを行った。その平田から、大島は「根尾をよろしくお願いします」と頼まれたという。
下半身のコンディション不良などで今季55試合出場に終わった平田が大島に頼み込んだのは、「自分と向き合って、1人でやりたい」という理由。
大島は根尾からオフに何をやりたいか、どうして自分のところで練習したいのか、今後どんな選手を目指しているのか…。ていねいに聞き取り調査したうえで、大島塾の門下生とした。
大島自身は2年連続で最多安打のタイトルを獲得、高橋は3年連続規定打席に到達して今季は初の打率3割をマークした。
高橋は主将として、チームの中心選手となっている。大島はまず、根尾に何を伝えたいか──。
「速い真っ直ぐをどう打つか。まずは、そこです。周平と僕が説明します。あとは、根尾が何を考えて、どうするのか。僕と周平はできる限りのことをやります」
根尾は2年目の今季、プロ初ヒットを放った。9試合出場で23打数2安打、打率.087。こんなもんじゃない。こんな数字でいいはずがない。
大島と高橋が心血を注ぎ、未完の大器・根尾をレギュラー獲りを狙えるポジションまで押し上げる。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)