第4回:オフのコントロール
日本シリーズで4連覇を果たしたソフトバンクの選手たちがモテモテだ。と言っても、マスコミへの露出ではなく、自主トレの話。
今月23日に契約更改に臨んだ柳田悠岐選手は推定6億1000万プラス出来高で一発サイン。ついに日本人野手としては元巨人・松井秀喜さんと並ぶ最高給取りとなった。そのMVP男の下にロッテ・安田尚憲選手が弟子入りを志願している。来年1月に予定する自主トレに参加することが決まったのだ。
今季途中から4番に抜擢された安田は、チーム期待の大砲候補。柳田の超人的な打撃術を習得したいと、かつてソフトバンク時代に柳田の僚友だった福田秀平選手を介して実現にこぎつけたという。
今や球界を代表する捕手である甲斐拓也選手には巨人の2年目・山瀬慎之助選手が自主トレ同行を熱望。星稜高時代に奥川恭伸投手(現ヤクルト)とバッテリーを組んで甲子園を沸かせた山瀬は、同じ捕手出身の阿部慎之助二軍監督が将来性を認めるホープだ。二塁送球1秒8という強肩の持ち主が“甲斐キャノン”から新たな教えを習得すれば、意外に早く一軍入りの道が見えてくるかもしれない。
変わったところでは高橋礼投手がユニークな下手投げトレを敢行する。先輩である楽天・牧田和久や西武・与座海人投手とサブマリンならではのトレーニング法からマウンドでの心構えなどを学んでいく。
近年では、当たり前になった各球団選手の混合トレーニングだが、強いチームに優秀な選手が多いのは道理、したがってソフトバンク選手詣が増え続けているのだろう。だが、こうした現象に球団側は喜んでばかりもいられない。コロナの影は自主トレにも忍び寄る可能性が高いからである。
柳田の自主トレを例にとれば、安田以外にもソフトバンクから真砂勇介、谷川原健太選手、西武・戸川大輔選手の参加も決まっている。加えてトレーナーや打撃投手などの裏方も加えれば7~8人の集団生活となる。
押し寄せるコロナの波
シーズン中はNPBのコロナ対策行動規範に準じて、各球団が独自に遠征先の会食や人数制限など細かく選手たちの行動を管理していたが、各地に散らばって行う自主トレでは目の行き届かない部分も出て来る。そんなシーズン中ですら感染者は出ているのだから、コロナの第3波が襲うこの時期のリスクはさらに高いと言っていい。
一方で、コロナの余波は例年、海外で自主トレを行ってきた選手にも影響を及ぼしている。ソフトバンクの元気印、松田宣浩選手は1月に入るとグアムで体を鍛えてきたが、来春はこれを取りやめて宮崎での始動を決めている。
温暖の地で汗をかくことで早めに調整のピッチを上げてきたが、コロナ禍での海外渡航は難しい。現地の感染状況だけでなく、帰国時には2週間の自主隔離も義務化されている。せっかく体をキャンプ仕様に仕上げても、再びゼロに戻る可能性があるのでは海外に渡る意味がない。
日本ハムの杉浦稔大投手は年内に予定していた挙式をコロナの影響で延期する、と報じられた。17年に結婚した元アナウンサーの紺野あさ美さんと海外で挙式するはずがスケジュールの練り直しを余儀なくされたものだ。あちらでもこちらでも、厄介なウイルスに振り回される例は後を絶たない。
コロナ禍の中で開幕した今季は、選手たちも調整に苦労した。特に投手では例年以上に故障者が出たというデータもある。手探りの1年を経たことで学んだことも多いはずだ。しかし、シーズンが11月までずれ込んだことによって、いつもの年よりオフの期間は短い。疲労を蓄積したままキャンプから開幕を迎えれば再び、故障者に悩まされる事態も考えられる。
「コロナには年末も年始もない」と日本医師会・中川俊男会長や小池百合子東京都知事は口を揃える。
未だに出口が見えないコロナの世界、すでに来季への影響も出始めている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)