新人王が見据える“近い将来”
新しいことへの探求心は、チームの先頭に立つ先輩と重なる。
広島・森下暢仁投手(23)が、春季キャンプで新球となるスライダーとツーシームを試した。
「いま持っている球種の精度を上げることが一番。そこまでスライダーやツーシームにこだわりはないです」
今季のためだけでなく、近い将来の完全習得を見据えている。
手探りを止めない先輩と重なる姿
森下が尊敬する先輩・大瀬良大地も、キャッチボールなどで持ち球にはない変化球を頻繁に試す。森下と同様に、目先の試合のためではなく、新しい変化球が必要となるときに向けた準備だと言う。
「打者の反応を見ても、正直自分の直球に信頼を置いていない。それなら、そこ(直球)ばかりを追い求めても限界があるし、認めないといけない年齢になった。真っすぐとカットボールだけではいつか苦しくなる」。そんな大瀬良の向上心は、シュートの完全習得にかけた時間に見て取れる。
2017年の秋季キャンプなどで試し、2019年の交流戦期間に多投した。しかし、「直球もシュートしてしまう」と、扱い切れていないと判断し、再びキャッチボールなどでの試投段階に戻した。投球の出来に関係なく、手探りを止めないのが大瀬良である。
そんな中で迎えた昨年、新型コロナの感染拡大による開幕延期期間に転機が訪れた。元同僚のツインズ・前田健太に相談するなどして握りを改良。「曲げようとすると体が開いてしまうので直球のように投げたい。僕の投げ方は見つけられたかな…と思う。いまは必要ないけど、苦しくなったときの引き出しになればいい」。数年をかけて、ようやくシュートの手応えをつかんだ。
不幸中の幸いと言うべきか、先を見据えて口にしたはずの「苦しくなったとき」は、予想しない形で訪れた。
昨季は150キロ台を計測するはずの直球が140キロ前後にまで落ち込んだ。右肘のコンディションが明らかに万全ではなかった。
直球が走らない時期と新球を完全習得した時期が重なったことで、シュートを本格的に投げ始めることになった。結局、昨季中に2度の登録抹消を経験して9月には右肘手術。5勝に終わったものの、有事に備えた研究姿勢は、不測の事態で生きた。
「必要になってくる時がきたら」
森下も本調子であれば、カットボール、カーブ、チェンジアップの3球種で通用するだろう。ただし、目先の投球内容だけに満足しないのが、チームの先頭に立とうする投手の向上心である。
1月の自主トレ中には、対面した前田にも新球について積極的に聞いた。
「まだ全然だめ。もう少し遊びの感覚でキャッチボールから投げられたらいいかなと思う。ツーシームもスライダーも後々のことを考えてのこと。今季だけではなくて、野球をやる上で必要になってくる時がきたら(投げたい)。使える球が増えれば、投球の幅も広がってくると思う。試してみてそういう球を投げられればいいなぐらいの気持ちです」
昨季中は、大瀬良が森下にチェンジアップの投げ方を聞き、森下はスライダー、ツーシームなどの変化球について大瀬良に質問したと聞く。
人一倍の探求心を持つ2人。将来の理想像を具体的に思い描いて行動に移す姿勢は、そっくりである。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)