静かなる調整は信頼の証
静かなまま、沖縄での1カ月を終えた。それは決してネガティブな意味ではない。こと岩崎優に限っては…。
「自分のやりたいことはしっかりとできましたし、順調なんじゃないですかね」
キャンプ最終盤、寡黙な左腕は表情を変えぬまま、小さくうなずいた。
「静」と書いたのは、分かりやすい表面的な動きがほとんどなかっただけだ。
投手陣では、ロベルト・スアレスとともに実戦登板はいまだにゼロ。守護神はコロナ禍での来日で2週間の隔離措置があったため、第2クールでの途中合流だった。
一方、セットアッパーを託される左腕は、初日からじっくり、ゆっくりとキャンプ地の宜野座で汗を流す日々。調整を一任されているのは、首脳陣の信頼の証に他ならない。
「まあまあじゃないですか」
では一体、何をしていたのか。細心の注意を払っていたのが、故障のリスクだ。
2019年には左肘の張りを発症し、昨年も右足を痛めた。ともに2月の沖縄での出来事。過去2年はシーズンを完走できておらず、その背景には春に顔を見せた“綻び”が少なからず影響していた。
「ケガをせずに開幕に向けてやっていくことが一番。調整を任されている以上、キャンプも自分の状態を見ながらメニューも考えてやっている」
もはや、チームの命運を左右する存在となり、開幕へ向けてのコンディション調整にも、いち選手にとどまらない大きな責任が伴う。リタイアがチームにとって一大事となってしまう立場になった。
宜野座のブルペンでは、投げ込みの量よりも質を重視。100球を超えることはほとんどなかった。
メリハリをしっかりとつけ、中盤には疲労が溜まったため、あえてペースダウン。「ほとんど想定内で動けたと思う」と、ここまでは計画通りだという。
28日には、スアレスとともにシート打撃に登板して初めて打者と対峙。「まあまあじゃないですか」と、“らしく”現状を語っていた。
ピークは「作らない」
それでも、ギアチェンジの時は近づいている。
「(今後は)試合に投げながらって感じですね」
間もなく、満を持して対外試合のマウンドに上がる。試合で感じること、修正点も出てくるはずで、東京ヤクルトスワローズと相まみえる3月26日の開幕戦へ向けて、調子の波を緩やかに上げていく。
ただ、どこかにピークを作るイメージはないという。
「ピークはないというか……難しいですね」
ブルペンで修羅場をくぐり抜けてきた男だけに、いつ何時も厳しい場面での起用があることは覚悟する。言うならば「曲線」にはならない、安定した「直線」のまま1年を戦い抜くのが理想なのかもしれない。
60試合登板をクリアした上で防御率0点台、救援失敗も0という高次元のミッションを自らに課す背番号13。「静」から「動」へ、これから長いシーズンを走り抜けるための加速に入っていく。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)