2021.03.04 15:00 | ||||
読売ジャイアンツ | 3 | 終了 | 2 | 東京ヤクルトスワローズ |
東京ドーム |
ペナントを面白くする男たち
3・26プロ野球開幕まで約3週間。コロナ禍で練習試合の形式をとってきた調整も3月の声と共にオープン戦に突入した。
今季のペナントレースもソフトバンクと巨人の下馬評は高く、次いで楽天、阪神の戦力充実ぶりが伝えられている。だが、果たしてそうだろうか? 昨年、下位に沈んだチームも戦力補強を果たし、上位進出の機を虎視眈々とうかがっている。
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多くの外国人選手の来日が遅れているのも不確定要素の因となる。今季は、大方の予想を裏切る混戦模様となる可能性も十分だ。下剋上や大どんでん返しのドラマこそ、長丁場の戦いを面白くする。この項では「台風の目」となり得るチームや選手の現状にフォーカスしてみたい。
第1回:ヤクルトのピンポイント補強
3月1日。ヤクルトと巨人の間で電撃トレードが発表された。巨人の田口麗斗投手とヤクルト・廣岡大志選手の交換だ。
投手陣の補強が急務のヤクルトと、ポスト・坂本勇人となり得る人材を探していた巨人の思惑が一致した格好だが、短期的に見れば、ヤクルトが得したようにも映る。廣岡の場合はレギュラー奪取に時間がかかるだろうが、田口の場合は即戦力の先発候補。ある評論家は「5~10勝を計算できる」と評価する。
これだけではない。先月には前ソフトバンクのリック・バンデンハーク投手を獲得。近年は故障続きのため昨季限りで自由契約となったが、150キロ超の剛速球とソフトバンク在籍の6年間で43勝19敗の実績は捨てがたい。
2年連続最下位に沈むヤクルトの最大の弱点は投手陣にある。昨季のチーム防御率4.61は12球団ワースト。先発陣に限ると同4.83とさらに悪化している。
エースの小川泰弘こそ10勝をマークしたが、それに続く者がいない。アルバート・スアレス投手が4勝ながら防御率2点台とまずまずの安定感を発揮したものの、高梨裕稔3勝6敗、防御率4.21。石川雅規2勝8敗、防御率4.84。吉田大喜2勝7敗、防御率5.21。主な先発投手はいずれも大きく負け越し、防御率も4~5点台では勝負にならない。
今春の沖縄キャンプでも古田敦也氏(元監督)を臨時コーチに招請してバッテリーの強化に躍起となった。だが、対外試合のすべり出しは惨憺たる有様で、高津臣吾監督も「こんなんじゃ、絶対シーズンを乗り切れない」と、思わず愚痴が口を突いたほど。そこに田口移籍の朗報だから、一筋の光明が射しこんだ思いだろう。
新外国人投手として獲得したサイスニードとバンデンハークの来日時期は現時点で不明ながら、小川に次ぐ2~3番手に田口と両外国人が入ってくれば大きな底上げになる。そこにルーキーの木澤尚文、山野太一や、2年目の奥川恭伸ら若手投手の成長に期待したい。
常勝を知る男たちの加入
打者陣に目を転じると、内川聖一選手の加入が大きい。昨季はソフトバンク若手の成長で出番を奪われて一軍出場機会こそなかったが、ファームでは3割を超す打撃で健在ぶりをアピール、出番を求めてヤクルトにやってきた。横浜時代の恩師である杉村繁打撃コーチの下で復活を期すのも心強い材料だ。
3月3日の対巨人戦では早速、名刺代わりの一発を放っている。井納翔一投手の内角寄りストレートを、右ひじをたたむ技ありの打撃だった。こちらも来日の遅れているホセ・オスナ、ドミンゴ・サンタナ両外国人次第ではあるが、現在の定位置は「5番・一塁」で首脳陣の信頼をつかんでいる。
主砲・村上宗隆選手の後ろを打つ5番打者に人材を欠いていたが、その穴を内川が埋めるようなら打線全体の破壊力アップにつながるはずだ。
名将・野村克也監督時代から、他チームの戦力を集めては戦力に育て上げて「再生工場」と呼ばれてきた。昨年も阪神、独立リーグの香川と渡り歩いていた歳内宏明や、ソフトバンクを戦力外となった長谷川宙輝投手らを獲得して一軍マウンドに送り出した。だが、今季の内川やバンデンハークは「再生」というより、ソフトバンクの巨大戦力からあぶれたベテランをトレードでなく安価で獲得、いわば、ちゃっかりと活用する「ヤドカリ商法」とでも言うべきか。
それでも、ソフトバンクのⅤ5に貢献した大物たちと、常勝・巨人の先発左腕候補を獲得したことで逆襲の材料が揃ったことは確かだろう。
2015年には2年連続最下位から奇跡のリーグ優勝を果たしている。
「リーグのお荷物」とまで酷評されたこともあるヤクルトだが、意外性が発揮されれば台風の目となる資格は十分にあると見た。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)