第3回:期待しかないヤング・バファローズ
評論家諸氏による順位予想が出揃ってきた。パリーグでは王者・ソフトバンクと田中将大投手の復帰と即戦力ルーキー・早川隆久投手が加入した楽天が対抗。ロッテと西武がそれに続き、日本ハムとオリックスが下位候補というのが大方の見方だ。図式としては“2強2中2弱”といった格好になる。
こうした中で最も評価が分かれるのがオリックス。
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球界を代表するエースに成長した山本由伸に、山岡泰輔、田嶋大樹と計算できる先発陣に、今季は2年目の宮城大弥の成長も著しい。懸案とされてきた中継ぎ、抑えにも阪神から移籍の能美篤史、メジャーから4年ぶり復帰の平野佳寿らが加わり、投手陣の評価はかなり高い。
あとは攻撃陣。昨年も首位打者の吉田正尚以外に規定打席に到達したのはT−岡田だけ。アダム・ジョーンズとスティーブン・モヤの外国人選手まではある程度の計算がたっても、その前後がひ弱い。1、2番の上位だけでなく、クリーンアップの後ろを任される下位打線も迫力不足。それがリーグワーストの得点力に表れていた。
そんな中で、上位進出の鍵と目されているのが紅林弘太郎と太田椋のフレッシュコンビだ。
超大型遊撃手の飛躍なるか
チャンスは意外なところからやってきた。3月5日、正遊撃手である安達了一選手がコロナに感染して戦線を離脱。療養や今後の調整を考えると開幕出場は難しい。そこで白羽の矢が立ったのが2年目、19歳の紅林だった。
一昨年のドラフト2位。静岡・駿河総合高で甲子園出場は果たせなかったが、知る人ぞ知る逸材として評価されている。持ち前のパワーに俊足強肩の持ち主で、一部スカウトからは「巨人・坂本勇人の高校時代より上」という声もあったという。
ルーキーイヤーの昨年はシーズン終盤の11月に入って一軍に昇格、それでも初出場の楽天戦で則本昂大投手から初打席初安打を記録すると、翌日も涌井秀章投手から初打点となる右前打を放っている。球界を代表するエース級にも手玉にとられないあたり、非凡な才を見てとれる。
練習試合からオープン戦序盤あたりは三塁と遊撃の併用だったが、開幕まで間近となった今はショートで先発出場の機会が増えた。首脳陣の期待に応えるように10日から17日までの直近6試合では19打数7安打1本塁打で打率は「.368」のハイアベレージを残している。
御難を乗り越えたドラ1
もう一人の楽しみな存在は開幕・二塁を当確としている3年目の太田だ。
こちらは19年ドラフト1位の20歳。父・暁さんが元近鉄の選手で、オリックスの打撃投手を務めているところから“親子鷹”として話題を集めたが、素材の良さはプロ初安打で実証された。2年目となる昨年のソフトバンク戦で待望の一発がバックスクリーン直撃弾、紅林同様に無限の可能性を秘めている。
入団から2年間は故障に泣いてきた。1年目は教育リーグのソフトバンク戦で千賀滉大投手から死球を受けて右尺骨骨折。右大腿骨を痛めて出遅れた昨年も一軍での活躍直後に、日本ハム戦で走塁中にクリスチャン・ビヤヌエバ選手と交錯して肋骨を骨折と御難続き。まずは万全の状態で勝負のシーズンに挑みたい。
素質あふれる若武者たちの打撃の特徴は、内角球を巧みにさばけて、右方向にも一発が打てること。まだまだ、粗削りで三振も多いが、中嶋聡監督が辛抱して使い続ければ、将来的には20本塁打以上を放ち、吉田の前後を任せられる強打者に育つことも夢ではない。
2月23日の対ロッテ練習試合で、そんな夢を運ぶアベックアーチが実現した。初回に太田が右越えに本塁打を放つと、紅林は3回と5回に3ランを2発、6打点の大暴れで首脳陣にアピールした。
19歳と20歳の若者が二遊間で開幕戦に先発出場すれば、球団史上初どころか、球史にも残る異例の大抜擢となる。そこで期待以上の働きを見せれば、打線に新風を吹き込み、チーム力の底上げにつながるはずだ。
開幕から西武、ソフトバンク、楽天と難敵が続く。“2弱”の下馬評を覆すためにも、紅林、太田に20歳の宮城を加えたオリックスの「U-20トリオ」の働きから目が離せない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)