今年も役者揃い!
虎の"牙"は、2021年も鋭く研がれている──。
オープン戦で3試合連発、6本塁打を記録してドラフト制以降の新人最多本塁打記録を49年ぶりに更新した佐藤輝明が話題を独占するタイガース。脇を固めるジェフリー・マルテ、ジェリー・サンズの両大砲までもが絶好調で、得点源に事欠かない。「令和のダイナマイト打線」が衆目を集める中、着実に層を厚くしているのが鉄壁のブルペン陣だ。
現役を引退した藤川球児、オリックスに移籍した能見篤史がチームを去っても、役者は揃う。
昨季のセーブ王であるロベルト・スアレスを筆頭に、セットアッパーの岩崎優、先発から転向した岩貞祐太、来日2年目のジョン・エドワーズと、剛腕タイプから技巧派まで顔ぶれは豊富。それでいて、今春は「ニューカマー」の奮闘が目立っているのだ。
"最後方"から一気の豪脚
キャンプ地の沖縄から勢いを持続しているのが、ルーキーの石井大智と新加入の加治屋蓮だ。
石井は昨秋のドラフトにおいて、支配下選手としては12球団最後となる74番目の指名でタテジマに袖を通した。まさに"最後方"からのスタート。立場を自覚する右腕も、キャンプインを号砲とするように自らムチを打ってきた。
右投げのオーバースローでは稀少なシンカーの使い手は、2月の対外試合で3試合連続零封の圧巻投球。伊藤将司や佐藤蓮といった同じ沖縄組のルーキーを凌駕するアピールを見せ、矢野燿大監督の目にも留まった。
「すぐにうちの中継ぎに入っても勝負できる。そういうものはしっかりと見せてくれた」。
それは数ある中の「期待」の存在から、「戦力の1人」として認められた瞬間でもあった。
這い上がってきた男たちも
石井が「最後方」なら、「崖っぷち」からはい上がろうとしているのは加治屋。紅白戦を含めていまだ失点を許しておらず、9日の広島戦では加入後初めて甲子園で腕を振り、1回を無失点と快投した。
昨オフにソフトバンクを戦力外となった右腕も、2018年には72試合に登板した鉄腕の気質を備える。プロの世界の厳しさ、非情さを誰よりも痛感している男。今年に懸ける思いは、ボールを見ていれば自然と伝わってくる。
"ミスターゼロ"は他にもいる。3月に入って二軍から合流した小林慶祐は、10日の広島戦で初登板すると、14日の巨人戦にかけて2試合連続の無安打投球。追い込んでからのスプリットは痛打される気配は無く、三振の山を築く。「これを続けていけるように頑張りたい」の言葉に、その手応えがにじむ。
そんな右腕と揃って昇格してきたベテランの桑原謙太朗も、最優秀中継ぎのタイトルを獲得した2017年に無双した「真っスラ」の輝きが戻りつつあり、オープン戦では失点なし。高知二軍キャンプスタートだった小林と桑原の輝きには、状態を見極めベストなタイミングで戦力を供給する一・二軍の密で健全な態勢がうかがえる。
緊張感が生む好循環
無論、プレシーズンと本番は別物だ。幕が開ければ、公式戦での結果がすべて。同じメンバーで1年間を戦い切ることは簡単ではない。
長いシーズンで他球団に食らいついていくには、"牙"は何本あっても足りないぐらいだろう。だからこそ、春の時点で"計算できる"パフォーマンスを見せている選手が多いことは、首脳陣にとっても心強い。
ここ数年、顔ぶれを変えながらリーグ屈指の安定感を堅持してきたブルペンの強みがここにある。
1年目の石井は別として、加治屋や小林、桑原も、昨年は日の目を見なかった面々ににじむ意地。若手のカテゴリーから外れている男たちは、与えられたチャンスは有限だと自覚している。
"無失点"の連鎖は、そんな緊張感から生まれているのだろう。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)